漁のやり方
奏弓『トュラン・グラウィスカ』は、4つのリムを持つ弓である。
中央にクロスした弦が、矢を打ち出す威力をより高める構造で、伸縮機構を持つリムは2つに分けれて刃(ブレード)ともなる仕組みだ。
「そんなオモチャで、このオレが倒せるとでも思っているのか?」
ケイダンは、テーブルの上で弓を番える行儀の悪い少女に向かって言った。
「さあね。倒せるかどうかなんて、どうだっていいわ。アンタは、シャロの仇……アタシが仇を討ちたいから、そうしてるまでよ!」
トュラン・グラウィスカから、無数の矢が放たれる。
曲線的で不規則な軌道を描いた矢は、全てがケイダンへと向かって飛んだ。
「中々の妙技だ。だが、オレには通用せん」
時空を切り裂く剣が、一閃する。
ケイダンの目の前に開いた空間が、全ての矢を飲み込んだ。
「お前は、赤毛の英雄を好いているのだろう?」
「ええ、そうよ。アイツ、勝手に死んじゃって、ホントにムカつくわ!」
弓を展開した2つのブレードを両手に、ケイダンに斬り込むカーデリア・アルメイダ。
「心配には及ばない。お前も、直ぐにヤツの元へと送ってやる」
バクウ・プラナティスを振り上げるケイダン。
そのとき、会議室のドアが乱暴に開かれた。
「大丈夫か、カーデリア。まだ、死んじゃいねェだろうな!」
ドアを蹴破って入って来たのは、バルガ王とその一行だった。
「バルガ王、逃げて。コイツは危険なの!」
王の方を振り返って、退避を促すパッションピンクのショートヘアの少女。
彼女の背後に、闇の空間が大きな口を開け広がっていた。
「カーデリアッ!?」
「いいから、逃げ……」
少女が空間に呑まれるかに思われた瞬間、初老の男が少女を跳ね飛ばす。
「ムッ、キサマは……」
「これで、我が口も封じれよう!」
ジャイロス・マーティスは、微笑みを浮かべながら闇の空間に呑まれた。
「流石は、サバジオス騎士団の団長と言ったところか。大した、決意だ」
テーブルの上に広がっていた空間が、徐々に口を閉じて行く。
「テ、テメー、ジャイロス殿を何処へやった!?」
オレンジ色の長髪を靡かせ、長い刀身の黄金剣を勇壮に身構えた男が、ケイダンに詰問した。
「なるホド、お前がファン・二・バルガ王子か?」
顔色1つ替えずに、ケイダンは質問を質問で返しす。
「イヤ、それはちょっと前までの話だぜ。なあ、キティ」
「ああ。コイツはこれでも一応、カル・タギアの王なのだ」
ベリュトスとキティオンの2人の側近が、王であるコトを告げた。
「風変わりな部下だな、バルガ王。それとも、カル・タギア人の気質か?」
「まあ、そんなところだ。オレも含めて、海の民は堅苦しいのが苦手でな!」
黄金剣を手に、ケイダンに斬りかかるバルガ王。
「フッ、そうか。なばら、こちらも遠慮はすまい」
ケイダンは、バクウ・プラナティスで王の剣を受ける。
同時に、剣身から闇が広がった。
「王子、逃げろ!」
「ソイツの剣は、全てを飲み込むぞ!」
2人の側近が叫ぶ。
「もう遅い。王よ、お前も闇へと呑まれろ」
「イヤだね。それに、オレはこれを狙っていた!」
王は、長いテーブルに掛けられていた、相当な長さのテーブルクロスを引き剝がした。
「なにを、するつもりだ?」
「こうするのよ!」
テーブルクロスは、大半の部分が空間へと吸い込まれたが、王はその端を握る。
すると、テーブルクロスは見る見る黄金へと変化して行った。
「オレの黄金剣『クリュー・サオル』は、物質を黄金へと変化させる。そして、テーブルクロスの先には……」
暗黒空間に流れ出た、黄金のテーブルクロスの先は、空間に呑まれたジャイロスの身体に触れていた。
「だが、遅い。空間は既に、閉じようとしている」
急速に収縮する、暗黒空間。
「焦るなって。漁ってのは、こうやってやるんだぜッ!!」
王は、黄金のテーブルクロスを、投網のように急速に引き上げる。
空間が閉じる瞬間、ジャイロスの身体は黄金のテーブルクロスによって1部が黄金化したまま、現世へと引き上げられていた。
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