バルガ王の誕生
その日、崩壊し王を失った海底国家、カル・タギアに新たなる王が誕生した。
「みんな、よく戻ってくれた。知っての通り、オヤジのヤロウが大魔王にされちまってよ。悪いがしばらくの間、このオレが玉座に座るコトになった」
新王は、海皇の象徴である蒼いマントを纏い、頭には真珠の散りばめられた黄金の王冠を被っている。
「バルガ王子ーーー、アンタに付いて行くぜーーーッ!!」
「バカ、もう王子じゃなくてバルガ王だろ!」
「イヤ、そうだった、アハハ!」
街の広場に集まった海の民は、地上の王国ほどは格式ばってはおらず、王との距離も近かった。
「戴冠っつっても、正式なモンじゃねぇ。海皇の宝剣たる『トラシュ・クリューザー』も、オヤジのヤツが持って行っちまったからな」
「いえ、兄上。例えそうであったとしても、今のカル・タギアの王は、兄上を置いて他におりません」
ギスコーネが、兄に向って片膝を付きながら傅(かしず)いた。
「オイ、ありゃあギスコーネのヤツじゃねェか!」
「アレ、バルガさまとギスコーネさまって、犬猿の仲じゃなかった?」
「自分の派閥まで作って、バルガ王子を目の仇にしてたクセに、どう言った風の吹き回しだ?」
「まあまあ、仲が戻ったのなら何よりじゃわい」
「でもよ。この国をこんなにしやがったサタナトスって野郎を、手引きしたのはアイツって話だぜ」
「そうだ、死んじまったヤツも、たくさん居るんだ。すんなり許せるもんか!」
国民たちの憎悪の目が、ギスコーネに向けられる。
「コイツは、何発かぶっ飛ばしてやったんだが、そんなコトで死人が生き還るモンでも無ェコトは、解っている。だが今は、それ以上に重要な問題が……」
「バルガ王。ボクの罪は、自分が1番解っております。罪は、甘んじて受け入れましょう」
民に向って、深く頭を下げるギスコーネ。
「スマンな……みんなの不満も、最もだ。だが今は、コイツの力も必要なんだ。どうかこの通りだ、コイツの罪を、オレに預けてくれ!」
冠が落ちそうになるくらい、深く頭を下げるバルガ王。
「ま、まあ、王がそこまで言うんなら……な」
「仕方ないわね、もう悪さすんじゃ無いわよ」
「王子の右腕になって、補佐してやりな」
「済まない……みんな……」
涙を零す、ギスコーネ。
このとき彼は、自分の罪深さを心底理解した。
「バルガ王、罪深き弟を救うなど、王として立派な心掛けだと思いますわ」
グラマラスな身体に、真紅の鎧を纏った女将軍が言った。
「ウン、そだね。マント着てると、確かに王さまっポイかも」
ライム色の水着に、透明な鎧を来た少女も続く。
「ガラ・ティアに、スプラ・トゥリーか。お前らは、オレに従ってくれるか?」
「もちろんですわ。このガラ・ティア、バルガ王に忠誠を誓いましょう」
「ボクも、王に忠誠を誓うよ。愛するのは、ダーリンだケドね」
2人にまで減ってしまった、7海将軍(シーホース)も、王に対しヒザを付き、頭を下げた。
「まずはこのカル・タギアの、復興を目指すぜ。みんなの力を、貸してくれ!」
バルガ王のぶっきら棒な演説に、海の民たちから歓声が沸き起こる。
「おうよ、バルガ王。任せな!」
「こうしちゃいらねぇ。潰れた建物を撤去して、建て直すぞ!」
「まだ、避難したままのヤツらも、呼び寄せようぜ!」
広場は活気に溢れた民で、ごった返した。
けれども、物陰からその様子を見ていた1人の少女が、広場を立ち去る。
「ン、アレは……」
王の後ろに控えていたベリュトスだけが、そのコトに気付き後を追った。
「おい、キティ。こんなところに居たのかよ」
海底都市の漁港の桟橋に立つ、鍛えられた体躯の男。
「うわ、ベリュトス……なんでお前が、ここにィ!?」
漁港と言っても漁船は殆ど存在せず、あったとしても半壊している。
倉庫も市場も加工場も、それぞれが大きく崩れていた。
「お前の気持ちは、解るつもりだ。オレも、兄貴を亡くしたからよ」
「そう……でもわたしは、姉さんが死んだのを、この目で見たワケじゃない」
男が見つけた少女は、瓦礫の上に座って海を見つめている。
「ティルスが死んだのが、信じられないのか?」
「当たり前でしょ、姉さんが簡単に、死ぬハズが無い」
海と言っても、海中のため水平線は無く、魚が泳ぐ海がそこにあった。
「まあ、そうなるよな。オレだってまだ、兄貴が死んだなんてウソみてーに思ってるし」
「そう……やっぱ姉さんは……」
少女はうずくまりながら、むせび泣く。
ベリュトスは、その背中をいつまでも見守った。
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