連行される一馬
地域リーグの開幕直前、ギリギリ滑り込むカタチで加入が認められた、清棲デッドエンド・ボーイズ。
「カーくんたちのチーム、地域リーグだっけ。加入が、認められたのよね?」
オレンジジュースを飲みながら、自宅のリビングでくつろいでいると、奈央が言った。
「奈央がどうして、知ってるんだよ?」
「ん~、亜紗梨さんに聞いた」
どうやら奈央と亜紗梨さんは、まだ親しくしてるみたいだ。
「その割には、ぜんぜんテレビで放送されないわね」
気怠そうに呟く奈央は、向かい側のソファーに座っている。
「放送されていたよ、深夜のニュースでチョットだけ……」
「なんで、もっと放送されないのよ?」
「名古屋には、Zeリーグのトップリーグに所属する、名古屋リヴァイアサンズがあるからだよ」
「そっか。確か、倉崎って人も居るんだよね?」
「倉崎さんは、ウチのオーナーでもあるんだ。今はケガして、試合には出て無いケドね」
「最初に遭ったときは、胡散臭い人だと思ったケド、まさかホントにサッカークラブのオーナーだったなんてね。しかも、高校生なんでしょ?」
「ウン、今は高校3年生」
「高校生で、プロサッカー選手で、チームオーナーかぁ。だったらもっと、放送されていても良さそうじゃない?」
再放送のドラマを見終わった奈央は、ボクの家のテレビをリモコンでポチポチと変え始めた。
「あッ、もしかしてコレ、そうじゃない?」
ボクの方に顔を向ける、奈央。
「アレ、カーくん?」
けれどもボクは、既に家を飛び出していた。
「奈央のヤツ、サッカーなんて興味無かったハズなのに、今日はやけに喰いついて来たな。ひょっとして、亜紗梨さんの影響かな?」
サッカーボールを転がしながら、近所の公園に向かうボク。
「そうだ、練習場に行ってみよう。誰か、居るかも知れない」
モヤモヤした気持ちを振り払うように、川べりの練習場へと向かった。
「やっぱ、誰も居ないや。元々、デッドエンド・ボーイズ専用の練習場ってワケでも無いモンな」
湿った土と砂の入り混じったグランドに降りると、ボクはボールを置きシュート練習を始める。
まずは破れかけのゴールに向けて、普通にシュート。
それから段々と距離を取って、ミドルシュートの練習に移行した。
「杜都さんは強烈なパワーミドル、柴芭さんは外から巻いてくるシュートを持っている。ボクもこのシュートを、ある程度はモノにして置かないと……」
オーバーレイ狩里矢との練習試合で、偶然決められたシュート。
「ドライブシュートだッ!」
ボクはあのときの感覚を呼び起こしながら、ミドルシュートを放つ。
ボールの下側を、こそぎ上げるようにして撃ち上げた。
「うわあぁ!」
するとボールは、ゴールバーの遥か上空を越え、遊歩道の方へと飛んで行ってしまう。
「ダメだ、セルディオス監督みたいに、上手く行かないや」
慌ててボールを追いかけていると、一級河川をまたぐトラス橋の上で、スーツ姿の大人が数人駆けずり周っているのが見えた。
「こんなところにスーツって、見かけないよな。なにか慌ててるみたいだケド……まあいいか?」
ススキの群棲してる辺りを、探し始めるボク。
「お、あったあった……ンンッ!?」
ススキの中でボクは、自分と同じ顔を見つけた。
「うわあ、なんだッ!?」
目の前のボクの顔も、ボクを見て驚いている。
けれども、よく見ると髪の色が少し違うし、長い気がした。
「オイ、今声がしなかったか?」
「橋の下かも知れん。行ってみよう」
するとナゼか、橋の上の大人たちが降りて来る。
「マ、マズい、見つかったのか!」
目の前のボクの顔は、ボクの口を塞ぎススキの群棲の奥深くに、ボクを引きずり込んだ。
「どうやらまだアイツら、ボクには気付いていないみたいだ。でもこのままじゃ、時間の問題か……」
「ムウ……グウゥ!?」
「あ、ゴメン、苦しかった?」
「プハッ……、ゼハー、ゼハー!」
手を離され、必死に息を吸い込むボク。
「それにしてもキミ、ボクにそっくりでメチャクチャ良い男じゃないか?」
少しだけ髪色の違う、ボクが言った。
「キミは……?」
自分にそっくりなせいか、初対面なのに話せる。
「ボクは、詩咲 露欄(しざき ロラン)。それよりキミ、このジャージを着てくれないか」
ボクはジャージを手渡される。
なんだか、星がいっぱいついた黒いジャージ……なんでこれを、ボクに?
疑問に感じながらも、ジャージを着るボク。
「悪く思わないでくれ」
「う、うわあッ!」
ボクはロランと名乗った人に、ススキ野から押し出される。
「ロランくん、こんなところに居たのか」
「さあ、記者会見場に戻るぞ」
2人のスーツを着た大人が、ボクの両腕をガッシリとホールドした。
「へ……なんで?」
ボクは2人の大人に、連行されて行った。
前へ | 目次 | 次へ |