ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第9章・EP021

雨の日のおじいちゃん

 紅華さんが、ネロさんからファウルを誘って得た、フリーキック。
でも、フルミネスパーダMIEのゴールまでは、遠く離れている。

「さて、数少ないセットプレイのチャンスだ。これを、生かさなきゃな」
 ボールから右側に下がった、紅華さんが言った。

「紅華隊員。着弾地点まで、かなりの距離がありますが、問題無いでありますか?」
 ボクたちの背後から、杜都さんが質問する。

「お前のロングシュートで、直接狙うてコトか。確かに、それもアリだがよ。壁が出来ちまってるぜ」
「壁は3枚でありますな。自分のシュートは直線の弾道でありますから、左右を抜く他無いであります」

「それだと、かなりコースが限定されるな。オレは回転かけたシュートを撃てるが、お前の言う通りこの距離だと、ゴールに届く頃には威力が落ちちまう」

「あのアグスと言うキーパー、先ほどの紅華隊員のシュートも、難なくキャッチしたでありますぞ」
「逆を突いたつもり……だったんだがよ。せめて弾くかと、思ったぜ」

 ボクが、静岡でエトワールアンフィニーSHIZUOKAの1員として対戦した時も、アグスさんがゴールマウスを守っていた。
でも、カイザさんやスッラさんたちの守備が固くて、アグスさんが仕事するコトはほとんど無かったな。

「相手のキーパーが、海馬コーチだったら良かったんだがよ。そうも、言ってられねえ」
 ボクの方をチラッと見る、紅華さん。

「……一馬、お前が狙え……」
 紅華さんにしては、やけに小さな声が聞えた。
壁に入っている相手には伝わらない、ボクにだけ届く声。

 ドライブシュート……。
ボクの、ドライブシュートで狙えってコトか。

 紅華さんがセットしたボールを、見つめる。

 セルディオス監督が、オーバーレイ狩里矢との試合の前に、見せてくれたドライブシュート。
ボクは、その試合も含めて何度かトライし、何本かを決めるコトが出来た。

 その度に、ドライブシュートなんて難しいシュートを、簡単に決めるよな……なんて言われたりした。
自分でも、そう思う。
でも、それには下地があるんだ。

 そう……あの頃のボクは、極端に無口だったコトもあって、みんなにイジメられていた。

 小学生の頃のボクが、頭に浮かぶ。
ボクは当時、みんなに混ぜてくれとは言い出せなくて、1人ぼっちでボールを蹴っていた。

「オイ、見ろよ。アイツ、また1人でサッカーボール蹴ってるぜ」
「大して上手くも無いクセに、なんで1人で蹴ってんだ?」
「さあな。それより、アニメが始まっちまう。帰ろうぜ」

 公園でサッカーを終えた同級生たちが、ボクの横を通り過ぎて行く。

「今日も……言い出せなかったな。なんでボクの口は……思うように動かないんだ」
 誰も居なくなった夕暮れのグランドで、ドリブルやシュートを練習した。

 壁を使って、パスの練習もした。
文字通りの、壁パスってヤツだ。

「今日は、サッカーできないや……」
 その日は、土砂降りの雨だった。

「カーくん、今日はいっしょに帰ろ。サッカー、できないでしょ?」
 幼馴染みの少女が、声をかけてくれる。

「オ。またあの2人、つきあってる」
「アイアイ傘かよ。お熱いコトで」

「ウッサイ。両方、傘持ってるよ!」
 勇ましく、ボクをからかう同級生を追い払う奈央。

「カーくん。気にしないでいいよ、あんなの。さ、帰ろ」

「……ん。ボク、行くところあるから」
 2人で歩いているのを見られるのが嫌だったからなのか、ボクは奈央の誘いを断った。

「あっそ。知らない!」
 機嫌を損ねた幼馴染みは、ソッポを向いて走り去ってしまう。

 行く当ても無いのに、雨の降る中を遠回りをして家に帰る、ボク。
傘を叩く雨の音が、怪獣の鳴き声のように激しくなった。
黒雲から稲光が走り、すぐ後に轟音が響く。

 恐くなったボクは、奈央と一緒に帰ればよかったと後悔した。
でも、悔やんだところで何も始まらない。
小走りに走って少し行くと、3階建ての市営のスポーツ施設が見えた。

「あ、あそこなら人も居ない……玄関で、雨宿りさせて貰おう」
 クツの中もグチョッグチョのボクは、慌てて建物から張り出した、軒(のき)屋根の下に駆け込む。

 しばらくボクは、1人だった。
でもボクの後に、ビニール傘を差したおじいちゃんが駆け込んで来る。

「ヒイイ。こんな傘、なんの役にもならんがや」
 その人は、服もズボンも濡れていた。

「おや。カワイイ先客が、おったわ」
 コテコテの名古屋弁で、話しかけて来るおじいちゃん。

「どや、ボウズ。ワシと、卓球でもせんか?」
 何の気まぐれだったのか、ボクは卓球に誘われた。

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