七つの星の物語
プレジデントカルテットのステージが終わっても、興奮冷めやらぬファンたち。
薄暗い観客席は、ざわめきが支配する。
「お、見ろよ天井。星空になってるぜ」
「解像度、ハンパねぇな」
「まるで、プラネタリウムに来たみたいだ」
ボクも首を上げると、天井のクリアパネル全面に、美しい星空が映し出されていた。
「ホントにキレイだな。この演出だと、もしかして……」
ボクは、次のアイドルグループを予想する。
すると天井の星空の一角に、ひときわ眩い星々が現れた。
「やはりな……昴(すばる)、プレアデス星団だな」
真っ白な7つの星から、真っ白なローブを着た少女たちが、星空に散らばる。
「おお、プレー・ア・デスティニーだぜ!」
「空中を飛んでるわ、天女みたい!」
「マジ、スゲー」
プレー・ア・デスティニーの、アステ、メルリ、エレト、マイヤ、タユカ、カラノ、アルキの7人の少女たちが、ワイヤーアクションで星空を飛ぶ。
それぞれの髪色をした光を、輝かせながら優雅に宙を舞っていた。
「アイツら、凄いな。あの高さから吊るされても、平気だなんて……」
「アラ……先生ったら、高所恐怖症なワケ?」
「そ、そう言うワケじゃないさ」
ユミアに言われ、子供っぽく反論してしまう。
「そろそろ、始まるみたいね」
「あ、ああ。そうだな」
メロディアスな曲が流れ始め、会場が再び盛り上がって行った。
「みなさ~ん、今日はライブに来てくれて、どうもアリガト~!」
蒼い光を纏った、パステルブルーの長い髪の少女、アステが空宙から叫ぶ。
「ホ、ホントにこんなにたくさん来てくれるなんて、ゆ、夢のようです」
引っ込み思案なメルリが、モスピンクの巻き髪ツインテールに、ピンクの光を纏わせながら言った。
「今日はわたし達頑張るから、みんなも楽しんで行ってね!」
真っ白な光を纏い、真っ白な髪を靡かせながらピョンピョンと宙を跳ねる、エレト。
「ボクたち、プレー・ア・デスティニーは、みんなを笑顔にしたくて生まれたんだ」
オレンジ色のレイヤーボブのマイヤが、オレンジの光を弾ませ元気に空を駆け回る。
思えば彼女たち7人は、同じテニススクールに通っていた。
その帰り道に、少年たちによって盗撮の被害に遭ってしまう。
「アイツらも、辛い時期があったろうに……よく立ち直ってくれたモノだ」
盗撮された動画をネットに拡散され、一時はパニックになっていた彼女たち。
ボクは少しだけ、肩の荷が降りた気持ちになっていた。
「それじゃ、わたし達のデビュー曲、行くですゥ」
ウェーブのかかった桜色の長い髪のタユカが、桜色の光を羽織りながら甘えた声を出す。
「曲名は、『七つの星の物語』と申します」
抹茶色のミディアムボブのカラノが、緑色の光を纏いながら丁寧な言葉で言った。
「アチシたちのデビューだぁ!」
ライトパープルのパイナップルヘアのアルキが、紫の光を弾かせながら会場のボルテージを最大限に引き上げる。
オーケストラのクラシカルな曲調から、テンポが徐々に上がって来ており、ロック調の音楽が割り込んできて、疾走感をさらにアップさせた。
「アステー、最高ー!」
ファンたちの上空を飛び回る、7人の少女たち。
「メルリちゃん、カワイイーー!」
「エレトーー、愛してるーッ!」
地上に降りるコト無く、空中を舞いながらデビュー曲を歌っていた。
「大丈夫なのか、アイツら。お互いに、ワイヤーが絡まったりとかしないだろうな?」
けれどもまた、隣のユミアにすら声が届かない。
「マイヤー、いっけェ!」
「タユカー、落っこちんなよォ」
ボクの心配をよそに、満開の笑顔で宙を舞い歌い続ける生徒たち。
「カラノさん、綺麗だ!」
「アルキ、スッゲーぜ!」
1番を終えた曲は、クラシカルな演奏に戻ったあと、再び疾走を始める。
「教室じゃ、みせてくれない笑顔だな」
ボクは少しだけ、アイドルに嫉妬していた。
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