そそのかされた天使たち
プレジデントカルテットに始まり、プレー・ア・デスティニー、ウェヌス・アキダリアとバトンを繋ぎ、チョキン・ナーのステージで最高潮に盛り上がる観客席。
「いよいよ、彼女たちの登場だよ。この会場に詰め掛けているアイドルファンの最も多くが、期待していたであろう2人のステージの開演だ」
久慈樹社長が、得意気に語った。
デジタルなレーザー光線が、深まった夜空に煌めく。
ステージの床が、正方形のタイルとなってスクロールしながら、虹色に光り始めた。
「なによ。期待させてたワリには、昔のディスコみたいじゃない」
「フフ。今日の舞台演出は、全て彼女たちの考案したモノだ。この程度で、終わるワケがないだろう」
するとステージに、誰かがワープをして来る。
2人の人影が、足元から徐々に実体化して行った。
「ア、アレって、カトルとルクスじゃね!?」
「な、なんでお2人が、ステージに立ってるのですゥ?」
後ろから、レノンとアリスの声が聞こえる。
「それよりも生身の2人を、どうやってワープさせたんだ?」
「裸眼3Dとか、駆使してるのかしらね」
ボクの疑問を、隣のデジタル大好き少女があっさり解決する。
「それにしても、カトルとルクスもステージに立たせる予定だったんですか?」
ボクと同じ疑問を、会場の殆んどの観客が抱いていた。
「な、なあ。あの双子って、サラマン・ドールのサポートだったんじゃねェの?」
「オレもそう思ってた。てっきり、サラマン・ドールが出て来るモノかと」
「いつもみたいに、手に持ってる感じも無いしな」
「まさか。ボクも、度肝を抜かれているところだよ」
久慈樹社長は、あっさりと降参する。
「み、皆さん、驚いてるかな?」
「ホ、ホントは、ボクたちが歌うハズじゃ無かったんだケド……」
「なんだか、さっきの事件でトラブったらしくて」
「少しだけ、ボクたちの歌を聞いて下さい」
カトルとルクスは、まったく同じタイミングでお辞儀をする。
「『レーダーとキグナスの恋』」
「『レーダーとキグナスの恋』」
2人の声が、完全にシンクロした。
完全に同じ動きで、ダンスを始める2人。
何処となく、バレエの要素を取り入れたダンスだった。
「この曲、カトルたちが練習させられてたヤツだ」
「ホントですゥ」
「そうなのか、レノン、アリス?」
「ウン。アタシらも、サラマン・ドールの人間体が出来るまでの練習を、見学させて貰ってたからね」
「そこで歌ってた曲が、何曲かあったんですゥ」
「そうなのか……サラマン・ドールの人間体って、もう完成しているんですよね?」
「そう言えばタリアの事件の時も、2人は素体のままドローンに乗って現れたわよね?」
ボクとユミアの視線が、久慈樹社長の花王の上で重なる。
「完成している……少なくとも、それは間違い無いハズだ」
珍しく不安そうな顔で、ステージを見つめる久慈樹社長。
ステージでは、曲を終えたカトルとルクスが、優雅に宙を舞い始めていた。
2人の白を基調としたアイドル衣装が、白い羽衣へと変化して行く。
背中には、真っ白な2枚の翼を生やしていた。
「おお、今度は鐘の音が、鳴り響いてるぞ!」
「見ろよ。ドームの全体が、まるで美術館の天井みたいになってる……」
「マ、マジ、スゲェ!」
真っ白な衣装で宙を舞う2人のまわりに、赤子の天使たちが群がる。
カトルとルクスを加えた天使たちは、ドームの天井全体へと広がって飛んだ。
夜空をバックに見上げた光景は、ルネッサンス期の天井絵画を思わせるモノだった。
「次の曲は、『天空の白き城のファンファーレ』」
「次の曲は、『天空の白き城のファンファーレ』」
再び、2人の声がシンクロする。
「この曲も、練習のときにやってたヤツだ」
「讃美歌やゴスペルみたいな感じの、ステキな曲なのですゥ」
レノンとアリスが言った通り、星色の髪をした双子の美しい歌声が、天上から観客席へと響き渡った。
「これはもう、確信犯じゃないですか、社長?」
「あのAIの2人、最初っから……」
「ああ。どうやらあの双子を、ステージに上げるつもりだったようだね」
久慈樹社長は、腕を組んでため息を吐いた。
前へ | 目次 | 次へ |