ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第32話

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この世界から作詞・作曲家は要らなくなりました。

「それで、どうするんだ。2人に、弟子入りでもするのか?」
 ボクは友人に、嫌味を言ったつもりだった。

「おお、ナイスアイデアじゃん。実はオレ、アイドル歌手の曲創るのなんて初めてでさ。お2人に、アドバイスを貰いたかったんだよ!」
「マ、マジでか!?」

「人間が、わたし達にアドバイスを……ねえ」
「なかなか殊勝な心掛けと、思うのだわ」
 2人の人形は、ドヤ顔になっている。

「そう言えばお前、言ってたよな。レアラとピオラが作詞・作曲した曲が、もう300曲もあるって」
「久慈樹社長の、話じゃな。ま、直接話しワケじゃなく、アイドル部門の担当の人を介しての情報だ」

「その情報、もう古いと思うよ」
「だって2人はさっき、1000曲創ったって言ってたし」
 観客席に座ったカトルとルクスが、あっけらかんとした顔で言った。

「その情報も、古いのだわ」
「現在、1232曲目を製作中よ」
 休息する双子の頭の上で、2体の人形が腕を組んでいる。

「……とは言えだ。いくら数を作っても、質が伴わなければ意味がないだろう?」
「当たり前なのだわ。低品質な曲を揃えたところで……」
「そんなモノが、ヒットするハズ無いのだから」

「ま、まさか1200曲全てが、高クオリティとか言うんじゃ無いだろうな?」
 ボクの背中に隠れるように、友人がたじろいでいた。

「どうかしら。何曲かタイプの違うのを、流してみるから……」
「人間に、判断して欲しいのだわ」
 レアラとピオラは、イコライザーの方角を見る。

「うわ、いきなり音楽が鳴り出したぞ!?」
 大音量でスピーカーが鳴り響き、綺麗な歌声がハーモニーとして巨大な観客席に響き渡った。

「このステージにある機材は、全てわたし達の支配下にあるのだわ」
「質問されそうだから先に言って置くのだけれど、歌声はわたし達の人間体の喉や声帯データを元に、シミュレートしたモノよ」

 ボクが聞こうと思っていた質問の答えを、先に言われてしまう。
それから2人は、曲の出だしから寂(さび)の辺りまでを、7曲ホド流してみせた。

「ス、スゲェ。どれも神曲じゃねェか。オレが創ろうとしてる、どの曲よりもアレンジが利いていて、寂のインパクトもハンパ無い!」

「全部の曲が、シングルで出してもおかしくないレベルだわ。間違いなく、ヒットナンバーよ」
 ユミアも、サラマン・ドールの2人が創り上げた楽曲の素晴らしさに、驚きを隠せないでいる。

「ネットやサーバーに散らばってる、人間たちの音楽の嗜好(しこう)をサンプリングしたビッグデータを元に、アイドル好きに好まれそうな曲のスタイルにしてみたのだわ」

「そ、そうだな。素人のボクですら、どの曲もスゴイって判るぞ」

「先生みたいな音楽の素人でも、曲の良し悪しは判るモノよ。一流レストランの料理長でなくとも、美味しい料理が判るようにね。だから、妥協は許されないのだわ」

「ほ、他の曲はどうなんだ。いくら何でも1200曲全部が、このクオリティは無いだろう?」
「アラ、先生。これは心外ね」
「それなら30曲くらい、聞かせてあげるのだわ」

 サラマン・ドールの2人がそう言うと、再び音楽が流れ始める。
アイドルらしい楽曲から、ハードロック、ヘビィメタルやジャズ、ヒップホップ仕立ての楽曲。
アニメっぽい曲から果ては演歌調の曲まで、ありとあらゆる楽曲が流れ、どれもクオリティが高かった。

「な、なんなんだ。このクオリティの高さは。オ、オレじゃ、到底太刀打ちできねェ!!」
 曲が変るたびに、自信を喪失し床に両手を付きうずくまる友人。

 もし2人が、音楽ではなく教育分野でも才能を発揮したとすれば、ボクも同じように自信を失っていただろう。

「じゃ、邪魔したな、2人とも。ボクたちは、この後行くところがあるから」
「アラ。ご友人に、曲創りのアドバイスをしなくても良いのかしら?」

「ま、また時間があるときに、頼むよ」
「残念ね。人間たちの率直な感想を、もう少し聞きたかったのだけれど」

 ボクは、真っ白になってしまった友人を肩にかけ、地下駐車場へと戻って行った。

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