大魔王の実力
「クソ……このままじゃ……意識を剣に、持って行かれる!?」
邪悪なオーラは、舞人の身体中から溢れ出し、皮膚も黒く変化する。
「キミの今の姿、まるで魔族じゃないか。まったく、皮肉なモノだねえ」
光り輝く神々しい身体となったサタナトスは、苦しむ舞人に近づいて行った。
「今、キミが使っている力は、魔王や邪神から吸い取った魔族の力だ」
アメジスト色の剣を大きく振りかざす、金髪の少年。
「対するボクの剣に宿るのは、人間どもから吸い取ってやった、善の感情や良心などだ。言わば、人間らしさと言ったところか……」
「お前の剣は……だからシャロリュークさんや……七海将軍たちが、心を奪われ……」
「今、ボクが使っている力が、人間の善なる心の結晶とはいかにも皮肉だろう?」
人間を憎み、魔族となりたがっている少年は、舞人に向かって剣を振り降ろす。
「そんな……そんな、コトがアアアァァァーーーーーッ!!」
サタナトスの剣を受け止め、獣のような雄叫びを上げる舞人。
「クッ!」
サタナトスは、翼を広げて大きく後退する。
その胸元には、横一線に大きな傷が刻まれていた。
「ご主人サマめ。やはり闇の力が、御し切れぬと見える」
大魔王ダグ・ア・ウォンと空中戦を繰り広げていた、ルーシェリアが眼下の戦いに気を取られる。
『我との戦いを前に、余裕ではないか。闇の魔王よ!』
蒼き龍は、トラシュ・クリューザーで暴風の鞭を発生させ、漆黒の髪の少女を攻撃した。
「フッ、妾を舐めるで無いわ!」
ルーシェリアは、イ・アンナを使って暴風の鞭を無力化する。
『キサマの剣は、重力を操るのだな。暴風の中心に重力的乱れを発生させて、渦を解除するとはな』
「その様じゃな、大魔王よ。レーマリアのヤツ、とんでも無い剣を託してくれたモノじゃ」
ルーシェリアは、空中都市アト・ラティアで繰り広げられる戦いの様子を、横目に確認する。
ご主人サマは、今のところ優勢じゃが、いつ闇の力に飲まれてもおかしくは無い。
他の面子も、イカの小娘こそまだ戦えているが、他の2人は劣勢じゃ。
妾が、何とかせねばなるまいな。
『さりとて我が槍も、海底都市カル・タギアが宝剣を元にして生み出されし槍よ。まだまだこんなモノでは無いぞ!』
大魔王が天に三又の槍を掲げると、海面から巨大な渦巻きが幾筋も立ち上がる。
「なんじゃ、また巨大渦巻きでは無いか。それが真の力とでも……!?」
そう言いかけたルーシェリアの前で、渦巻きは海面を離れ、巨大な水の龍となって襲い掛かって来た。
「きゃああーーーーーッ!」
無数の水の龍(ウォータードラゴン)に襲われ、傷付くルーシェリア。
『グハハハ。まだまだ、天下7剣(セブン・タスクス)たるトラシュ・クリューザーを素体とした槍の能力、こんなモノでは無いぞ』
すると、サタナトスが根城としていた虚城が、周りの地面ごと空中へと浮かび上がる。
「ヤツめ、海のみが力の源では無いのかえ!?」
『我は、海原の大魔王にして地震と軍隊の大魔王よ。故に、こんな芸当も出来るのだ』
居城は砕け、岩や城壁の断片となって宙を漂う。
「な、なんじゃと。城が……巨大な岩のゴーレムになりおったのじゃ!?」
ルーシェリアの目前で、岩や城壁の断片が一ヶ所に集って、巨大な岩の巨人となって立ちはだかる。
「ゴーレム風情が飛べるとは、反則では無いかえ」
けれども岩の巨人は勢いよく宙を飛び、漆黒の髪の少女を襲った。
「こりゃあ、早めに決着を付けねェとな」
戦いながらも、ルーシェリアと自身の父親との戦闘を見ていた、バルガ王子。
「なるホド、確かに余裕を身に付けられましたな。バルガ王子」
彼と対峙する、紫色の海龍が言葉を返す。
「ですが、過ぎたる余裕は命取りとなるコトを、この7海将軍(シーホース)の筆頭であるわたしがお教え致しましょう」
アクト・ランディーグは、深紅の金剛槍『オロ・カルコン』を構えて言った。
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