もう1つの戦線
オリュンポス山の裾野に広がるアクロポリスの街で、ゼーレシオンに乗るボクが、クーリアの操るQ・vava(クヴァヴァ)と死闘の末、街の地下まで叩きつけられ、気を失ってしまっていた同時刻。
同じ山の山頂1面を埋めるアクロポリス宇宙港にそびえ立つ、アテーナー・パルテノス・タワーでは、もう1つの戦線が転機を迎えようとしていた。
「ねえ。あの四角いヤツ、やっつけてもやっつけても、キリがないよ!」
チョコレート色の小さなツインテールの少女が、コミュニケーションリングを通して司令官に文句を言っている。
『宇宙斗艦長のご命令です。貴女たちは、自分たちへの被害を出来る限り最小限にしながら、施設を護らねばならないのです』
MVSクロノ・カイロスが誇る、優秀なフォログラムが言った。
「そんなコト言っても、これだけ大きな宇宙港を無差別に攻撃してくるんだよ」
「護りきれるワケ、ないジャン」
グレンデル・サブスタンサーに分類される小型の機体に乗り込んだ、60人の少女たちは反論する。
実際に、富士山がスッポリと収まる火口に築かれた、アクロポリス宇宙港はあまりに広大で、上空に飛来するQ・vic(キュー・ビック)の大群から、全てを守り切るコトは不可能だった。
『優先されるのは、太陽系の政治の中枢でる、アテーナー・パルテノス・タワーです。アクロポリス宇宙港全域を護る必要は、ありません』
「でも、いっぱい人が死んじゃってるんだよ」
「わたしたちより、ちっちゃいコたちだって居るのにさ」
「見捨てるなんて、かわいそうじゃん」
『残念ですが、全ての命を救える方法はありません。全員、タワー周辺のQ・vicをすべからく撃破するように』
「だけど、このタワーもやたらとデカいんだケド」
「ホラァ。もうあっちこっちで、火が出ちゃってるよ」
「これ以上攻撃されたら、倒れて来てペチャンコになっちゃうじゃん!?」
60機の小型サブスタンサーに乗った少女たちは、口答えしつつもそれぞれの機体特性に合った方法でQ・vicを撃破する。
けれども、Q・vicは次々に群がってきて、戦線が途切れない。
「フフ、オレを殺した艦隊のサブスタンサーが、ずいぶんと苦戦を強いられているではないか」
コミュニケーションリングを通して、少女たちの耳に男の声が響く。
「うああ、いきなり誰だよ、びっくりしたァ!」
「アレ見て。赤いサブスタンサーが、近づいて来るよ」
「その後ろ、サブスタンサーの大群が、したがってますわ」
「なんだ、乗っているのは子供か?」
赤いサブスタンサーを駆るのはやはりマーズで、自身のコミュニケーションリングから伝わる無邪気な声に、首を傾げた。
「父上。今はそれよりも、アテーナー・パルテノス・タワーに群がる敵を、駆逐すべき時です」
マー・ウォルスの背後から、1機のサブスタンサーが近づいて来る。
機体は、赤とオレンジを基調とし、狼のような頭部を持っていた。
腕にはそれぞれ3本の鉤爪が装備され、本来の腕の他にも背中に4本の腕があって、スラスターの役割も果たしている。
「ロムルス、お前はアクロポリス宇宙港の敵を駆逐しろ。オレは、塔の天辺に用がある」
マーズを乗せたマー・ウォルスは、息子に戦線を任せて飛翔して行った。
「お任せ下さい。この『リュカント・ロポス』と、母上の名を冠した艦、これだけの軍隊を預けて下さった父上が、喜んで下さる戦火を挙げてみせましょう」
真っ白な肌の金髪の少年が、リュカント・ロポスのコクピットで宣言する。
「さあ、グェラ・ディオーの戦士たちよ。ボクに続け!」
ロムルスの号令と共に、鳥や魚の頭部を持った異形のサブスタンサーの大部隊が、アクロポリス宇宙港のQ・vicに向かって突進した。
魔女の尖兵たる正方形の浮遊物体は、その多くがロムルス率いる部隊によって駆逐され、その多くは宇宙空間へと逃亡する。
アテーナー・パルテノス・タワーにて権勢を振るったディー・コンセンテスも、マーズとの交渉で彼の傘下に入るコトとなった。
こうして、アクロポリス侵攻は一端の終結を見る。
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