ライブステージ
2つの高層建築を地下で結ぶトンネルは、その両端に開業前の店がズラリと並んでいる。
店舗の内部には透明なビニールシートがかけられ、電気配線や塗装、内装をする作業員たちが、たまにこちらを見ていた。
「オイ、そんなに慌てるなよ。ステージは、逃げやしないんだ」
ボクはそんなトンネルを歩きながら、見えなくなった友人を呼び留める。
「いいから来てみろって、マジでスゴイから」
「ああ、わかったよ。どんな感じ……だ!?」
トンネルのちょうど中央付近の十字路を直角に折れると、巨大な空間が目に飛び込んで来た。
「なんだ、ここはライブステージか!?」
曲がってから50メートルほど進んだ先が、円形の巨大なステージになっている。
「地下に、巨大な空間……と言うか、観客席が地上まで抜けているのか!?」
観客席を上へ上へと見上げると、最上段と天井との隙間から、外界の光が差し込んでいた。
「逆にライブステージは、地下3階くらいの高さにあるのよ」
「なるホドな。周りの観客席からは、見降ろせるカタチになってるのか」
ボクはユミアの言葉に感心しながら、すり鉢状になった観客席の階段を降りる。
「上から見降たときは小さく感じたが、こうして近づいてみるとステージもかなりの迫力だな」
ステージが大きさを増すにつれ、軽快だった音楽もとんでもない大音量で耳に届いた。
「ん、カトルとルクスじゃないか?」
ステージの上では、星色の金髪の双子が、青と黄色を基調にしたアイドル衣装を着てマイクを握り、ぎこちない振付けで歌っている。
「どうしてアイドルでもない2人が、あんなカッコウで歌ってるんだ?」
「さあね。わたしに聞かれても困るわ!」
激しく鳴り響く楽曲のせいで、互いに最大の声量でなんとか会話が成立するレベルだった。
「仕方ないのだわ。わたしたちの人間大の身体は、まだ完成には至ってないのだから」
「あのコたちにはそれまで、わたしたちの代役として働いてもらってるのだわ」
するとボクとユミアの肩に、ちいさな人形が乗って来て言った。
2つの人形は、ゴスロリ調の黒と紫の衣装を着ている。
「レアラとピオラじゃない。またあなたたち、2人に無理させてェ!」
「そうだぞ。とくにカトルは、心臓に病気を抱えているんだ」
「そんなコトを、人類が生み出した最高のAIであるわたしたちが、理解していないと思うのかしら?」
「今どき腕時計ですら、人間の色々な健康状態を把握できるのだわ」
レアラとピオラがそう言うと、ステージから鳴り響いていた音が止んだ。
「フウ、もう終わり?」
「アレ、先生たち来てたんだ」
スポットライトで光輝くステージから、星色の髪の双子が降りてきて言った。
「カトルとルクスも、完全にアイドルじゃない」
「衣装だけだよ、ユミア。本番で2人が着る衣装の、チェックも兼ねてるんだ」
「あと振り付けとかもね。歌を歌いながらだと、けっこう大変だよ」
「本当にだいじょうぶか、カトル。お前は無理ができる身体では……」
「心配ないって、先生。大げさだなあ」
「カトルの心臓は、脈拍が上がっているケド許容値なのだわ」
「そうか。だが、他に影響が出てないとも……」
「心配性なのだわ。多少、便秘ぎみくらいで、生理も正常なのだわ」
「フギャアッ、キミたち、なにバラしてるんだい。男の人の前で、言っていいコトと悪いコトがあるんだからね!」
「これは迂闊だったのだわ」
「生み出されたばかりだから、学習しきれてない情報もあるのだわ」
「そう。なら仕方ないケド、気をつけてよね」
イヤ、ぜったいワザとだろう。
ぜったい、ワザとね。
ボクたちは、心の中でそう思っていた。
「ところで、さきホドから音響機材の周りで、ウロチョロしてるのは……」
「先生のご友人かしら?」
2つの人形のコミカルなジト目が、ボクの友人に向けられていた。
前へ | 目次 | 次へ |