ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・34話

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魔女の行方

「ウソだろ……オレたち人類が、時の魔女とやらと戦争してたなんてよォ!?」
 ゴージャスなドレッドヘアを振り乱し、会議に集った神々に問いかけるバックス。

 寡黙なアポロはともかく、饒舌なメリクリウスですら口をつぐんでいる。
女性軍人のディアナも、柔和な中年女性のケレースも、黙して語らなかった。

「どうやら宇宙斗艦長は、非常に頭の切れるお方のようですね……」
 そんな中、会議の長であり地球圏の代表でもあるミネルヴァが、話し始める。

「アポロさんやメリクリウスさんとセミラミスで話した時から、アナタたちディー・コンセンテスは、時の魔女を恐れているように感じていました」
 ボクは、ずっとあった違和感の正体を、口に出した。

「オイ……それじゃあオレたち人類は、本当に!?」
 バックスや皆の視線が自然に、太陽系の長たるミネルヴァへと集まる。

「こうなっては、致し方ありませんね……」
 彼女は相変わらず、逆光でその顔は見えなかったが、美しく優雅な声で話し始めた。

「我々人類はおよそ100年前、時の魔女が率いる軍と戦争を行ないました」

 火星の宇宙の太陽が、徐々に高度を上げると、会議室へと差し込む光も後退して行く。

「時の魔女が率いる艦はどれも、当時のわたくし達の科学テクノロジーを遥かに上回る技術で生み出されていました。さまざまなバリエーションの艦たちは、人類が生み出した艦隊を尽(ことごと)く粉砕したのです」

「そ、そんな恐ろしいコトが……起きていたなどと!?」
 ボクの隣に座っていたクーリアが、口を押え目を見開いた。

「ま、オレたちの頭ン中から、消されちまった記憶だ。驚くのも無理ねえか」
「だけど艦長。恐らく時の魔女の艦の一隻と……」
 護衛として同行していたプリズナーとトゥランが、ボクを見る。

「ああ。ボクたちの艦は、アーキテクターたちの反乱の前に、時の魔女の艦と交戦しました」
「それは、本当ですか?」
 背の高い、黒いスーツを着た男が言った。

「ええ、サターンさん。MVSクロノ・カイロスは『漆黒の海の魔女』と交戦し、なんとか撃破するコトに成功したました。名前に関しては、勝手に命名したモノですがね」

「これは驚きですね。我々は100年前の当時、時の魔女の艦1隻に艦隊が丸ごと壊滅させられていたのですよ。それを撃破してしまうとは、やはり……」

「宇宙斗艦長。貴方の艦も、時の魔女が生み出した艦に他ならないからです」
「はい、それは常々感じていました。危うい力であると」
 ミネルヴァの懸念も、ボクには理解できる。

「それで、どうなったんだ。時の魔女との戦争はよォ。オレたち人類が生きていて、時の魔女の姿が見えないってなると……」

「人類は、多大なる犠牲を出しつつも、辛くも勝利したのですよ」
 差し込む光の後退と共に、ミネルヴァの顔を隠す影も薄くなり、その表情が見え始めた。

「そうですねェ。それまで人間も関わっていた、艦隊や艦載機、軍用アーキテクターの開発をAIに一任し、鹵獲した時の魔女の艦のテクノロジーを分析してフィードバックし、次々に高度な性能を持った艦艇を投入したんです。形振り構わずね」

「メリクリウスさん、まるでアナタ自身が関わっていたみたいに言いますね」
「ええ、実際に関わっていたんですよ、宇宙斗艦長。当時のわたしは、艦艇の設計者でした」
「100年前の戦争に……それじゃあ!?」

「ええ、我々ディー・コンセンテスのメンバーの多くは、100歳は優に超えてるんです。最も、1000歳を超えるアナタに驚かれるのも、いささかおかしなモノですがね」

「だがよ、苦戦したとは言え人類は、時の魔女との戦争に勝ったんだろ?」
「どうでしょうかねえ。我々は確かに、時の魔女の艦を多く撃破しました。ですが……」
 バックスの質問に答えたメリクリウスが、視線を地球圏の代表へと振る。

「我々は遂に、時の魔女を捕らえるコトは出来ませんでした。魔女は、行方を眩ませたのです」
 立ち上がる、ミネルヴァ。
その時、彼女を覆っていた影は完全に晴れ、女神がその尊顔を顕す。

「ミネルヴァ……貴女は!?」
 ディー・コンセンテスの会議の中央に立っていたのは、クワトロテールの美しい女性だった。

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