個性的な神々
「わたくしは何も、1000年も前に過ぎ去った歴史を、非難しようとしているのではありません」
戦いの女神の名を持つ女性が、落ち着いた口調で言い放つ。
「群雲 宇宙斗艦長。アナタの艦は、この時代のテクノロジーすら超越しているのです。それが何を意味するか、お解りになりますか?」
「ボクの時代のミサイル防衛網が、気付かぬうちに無力化していたように、今の火星の兵器も戦力として心もとないモノになってしまう……と?」
アテーナー・パルテノス・タワーの最上階に集ったディー・コンセンテスの誰もが、ボクの回答に言葉を発しなかった。
けれども11柱の神々の誰もが、ボクの見解を否定もしなかった。
彼らにとって、すんなりと納得できない答えであるコトが、容易に推察できる。
「正直に言えばですね、宇宙斗艦長。この時代も1000年前と同じで、皆が平穏に暮らしているワケでは無いのですよ。それぞれの企業国家や組織が、それぞれの思惑で動いているのです」
メリクリウスさんが言った。
「そ、そうだ。キサマのお陰で我が木星圏の2大国家は、とてつもない大打撃を受けたのだぞ」
屈強なる大男が、突然激しい口調でボクに向かってまくし立てる。
「お黙りなさい、ユピテル。アナタの発言権は、はく奪したハズです」
「で、ですが、ミネルヴァさま……」
「これ以上口応えするのであれば、退席なさい」
「は、ははッ!」
大きな体を丸め、女神に平伏するユピテル。
ローマ神話では主神の彼も、この時代に置いては娘(ミネルヴァ)の配下に過ぎないのだろう。
「お見苦しいところを、お見せしてしまいました。我々ディー・コンセンテスも、宇宙斗艦長の活躍によって、木星圏でのアーキテクターたちの反乱は抑えられたと、評価しているのです」
「イーピゲネイアさんの反乱では、多くの人の血が流れてしまいました。それに、アーキテクターたちも、意味もなく破壊されて……」
ボクの目の前で狙撃され消滅した、名も知らないショップ店主のコトを思い出していた。
「宇宙斗艦長のお力添えは無ければ被害はさらに拡大し、戦火は太陽系規模にまで広がっていた可能性があります。もっと、自身の功績を誇ってくださいな」
「もはや一個人の功績とか、そんな話じゃ無いハズです。メリクリウスさん」
「おや、そうでしたね。わたしとしたコトが、マーズが自身の功績にはやって、多大な被害を出した挙げ句死んだばかりと言うのに」
「ですがメリクリウスの言う通り、アーキテクターの反乱が太陽系規模となっていた可能性も、否めないのも事実なのです」
「そうなった場合……人間に、アーキテクターの反乱を治める力はあるのでしょうか?」
ボクは、ミネルヴァに質問を返してみる。
「残念ながら無い……というのが現状ですね。既に彼らアーキテクターの能力は、我々人類を上回ってしまっています」
今まで話に加わらなかった長い黒髪の男が、女神の替わりに答えた。
「申し遅れましたが、わたしの名はサターン。土星圏の管轄を任されている者です」
自らをサターンと名乗った男は、浅黒い肌に漆黒のスーツを着ていて、背が高い。
しかしながらアポロやユピテルのような筋肉質ではなく、細身の身体だった。
「同意だな。わたしは月を管轄する、ディアナだ。我が月の軍も火星や木星圏と同じく、今は全てアーキテクターやAI任せで生産されてしまっている。アーキテクターの反乱など起きようモノなら、月は一瞬で制圧されてしまうだろう」
プラチナブロンドの、ショートヘアの女性が言った。
彼女はバイオレット色の軍服に身を包んでおり、凛とした釣り目には紫色の瞳を湛えている。
マーズのように、軍の指揮官を思わせる人物だった。
「わたくしは、ケレース。地球及び各惑星に置ける、食料の生産・管理を統括する者です」
ダークブラウンのミディアムヘアの、中年女性が言った。
ケレースには年相応の落ち着きがあり、安心感を与える柔和な言葉でボクに語りかける。
「現代では食料生産も全て、アーキテクターやAIの手によって行なわれ、飢饉などと言う言葉は過去のモノになりました。わたくし達人間が、働かなくとも暮せて行けるのは全て、彼らのお陰なのです」
「なに寝ぼけたコト、抜かしてやがる。ヤツらは所詮、機械じゃねェか。人間さまに歯向かうなんざ、100万年早いんだよ」
金髪ドレッドヘアの、派手な出で立ちの男がケレースを罵った。
「オレの名は、バックス。この太陽系全てに置ける、ギャンブルや娯楽を統括してる。ホテルやカジノなんかを、取り仕切ってるってトコだ。ま、よろしくな、じーさん」
派手なピンク色のスーツを着こなし、手やクビに金や宝石を巻き付けた男が、長い脚足をラウンドテーブルに投げ出す。
「これは……また……」
アテーナー・パルテノス・タワーに集った12神は、ボクが呆気にとられるホド個性的な面々だった。
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