ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・36話

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恐怖の魔女

 ボクが眠っていた1000年の間に起きた、人類と『時の魔女』との戦争。
多くの命が奪われた争いは、この時代の支配層の心に多大な影を落としていた。

「ものスゴく、根本的な質問をするんだがよォ」
 12神の1柱に数えられる男は、そう前置くとミネルヴァに向けて問いかける。

「『時の魔女』の正体ってのは、一体誰なんだ?」
 バックスの、余りに基本的な質問。
けれども彼の問いに答えられる者は、この場所には居ないのだと思った。

「残念ですが、解りません」
「解らないたぁ、どう言うコトだ。人類と戦争してた首謀者の素性が、解らないハズが無ェだろ?」

「いいえ、解らないのです」
「我らの艦隊が遭遇した謎の艦の数々が、時の魔女のモノであるコトは明白なのだがな……」
「時折り通信での交渉に現れた魔女の姿をした女も、ただのアバターであるコトが判明している」

 100年前に実際に艦隊を率いていたユピテルと、その参謀であったディアナが、ミネルヴァの言葉の正しさを弁護する。

「つまり、何か。人類は、どこの誰とも解らないヤツと戦争してたってのか?」
「そうなりますねェ、バックス。我々も当時、時の魔女が誰であるのか素性を探ろうとしたんですよ。ですが……」

 メリクリウスさんが、ため息交じりに答えた。

「時の魔女の姿形や年齢、本名は言うに及ばず、本当に女性かどうか……人間であるかどうかさえ、解って無いんですよ」

「何の手がかりも無しじゃ、手の打ちようが無いじゃねえか」
「時の魔女が、もっと積極的に自己アピールをしてくれる人物だったら、我々も苦労せずに済んだんですがね。ですがここ100年間、魔女は鳴りを潜めてました」

「それが遂に、動き出したってコトか。だがもし、魔女がアーキテクターやAIだった場合、自分の複製なんていくらでも造れるだろう?」
「そうなりますね。デジタルの記憶であれば、完全なるコピーが可能ですから」

 バックスとメリクリウスさんの言葉のやり取りは、多くの問題点を浮き彫りにする。
人類は、正体不明(unknown)でありながら無限湧きする時の魔女やその軍勢と、戦争をしなくてはならないかも知れないのだ。

「時に宇宙斗艦長。アナタの艦は、時の魔女の艦と交戦し撃破したと言われましたね」
「ええ、ミネルヴァさん。ボクたちが、漆黒の海の魔女と呼んだ艦のコトですね」
「その艦との交戦データを、お譲りいただくコトはできませんか?」

「ええっと、どうでしょうか……」
「決定権は、艦長にお有りなのでは?」
「はい、概ねはそうなのですが……」

 ボクは、ヴェルダンディが何と言うか気になった。
果たして彼女は、快く情報提供に応じてくれるだろうか。

「なんだよ、歯切れが悪いな」
「お黙りなさい、バックス。ではその時の戦闘経過は、伺えませんでしょうか?」
 火星の軌道上に、ボクたちの艦隊が駐留しているだけあって、弱腰なミネルヴァ。

「ボクの見た範囲で良ければ、可能です」
「はい。お願い致します」

 時澤 黒乃が大人になった容姿の、彼女が発する弱気な言葉。
彼女が本物の時澤 黒乃であるのなら、絶対に発しないだろう。
ボクは不自然な違和感を覚えつつ、口を開いた。

「ボクの艦……と言うのもおこがましいですが、MVSクロノ・カイロスが火星を離れ木星圏に辿り着くと、謎の艦がいきなり時空から出現したのです」

「なんですって。今の話、もう一度お聞かせください!」
「どうしたのだ、メリクリウス。今の話に、問題でも……」
「あるに決まっているじゃないですか、ユピテル。これは、大問題ですよ」

 何時に無く、感情を顕(あらわ)にするメリクリウス。
ボクにも彼の懸念するところが、解っていた。

「簡単に言えば時の魔女の宇宙船は、ワープをして現れたんです」
「つまりですよ、ユピテル。時の魔女は、宇宙船クラスの巨大な質量すら、ワープさせられるテクノロジーを持っているんです」

「だからそれの、何が問題だと言うのだ?」
「まだ解りませんか。戦艦すらワープさせられるのなら、核やバイオ兵器などを搭載したミサイルをワープさせるコトなど、造作も無いハズなんですよ」

 かつての上官であるユピテルに、参謀だったディアナが言った。

「今この瞬間にも、この一帯を破壊する能力を持ったミサイルを、ワープさせて来る可能性があると言うコトです」
 ミネルヴァは、憂いた顔で眼下の火星を見降ろしていた。

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