ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・33話

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戦争の歴史

 ~物語の舞台は、再び火星最大のタワーへと移る~

「AIやアークテクターを生み出したのは、人類だぜ。ヤツらの身体も意思も、全ては人間が与えてやったモノだ。なんで人間サマが、怯えなきゃならない?」
 ピンク色のスーツの男が、金色の貴金属が巻き付いた腕でオーバージェスチャーをしながら言った。

「だがな、バックス。古来より親に刃を向けた子など、枚挙に暇(いとま)がないのが人類の歴史なのだ。現に木星圏では、アーキテクターたちが反乱を起こしている」
 バッカスの楽観論を、ディアナが否定する。

「まったく、情けねェ話だぜ。ユピテル(主神)の名が、泣いてるな」
 バックスは、反乱を治められなかった統治者に目をやる。

「ぐぬぬ……今や軍隊は、アーキテクターやAIを載せた艦艇で構成されておる。そいつらに反乱を起こされて、どう対処せよと言うのだ」

「機械に意思を持たせたのが、人類のそもそもの間違いだろ。意思じゃなく機能であれば、問題は無かったハズだぜ」

「バックス、それを今さら言ったところで、始まらないでしょう。我々人類は既に、AIやアーキテクターのもたらす恩恵無くして、生きられはしないのですから」
 メリクリウスさんが、苦言を呈す。

「それに、ディー・コンセンテスに入ったのが遅い、若いお前は知らんだろうが、我々人類は……」

「ユピテル、いい加減になさい」
「ハッ、申し訳ございません、ミネルヴァさま」
 戦の女神の前で、再び平伏する主神。

 何かを隠している、ミネルヴァ。
今までの経緯から、ある程度の予測が付いた。

「第三次世界大戦の後も、人類は幾多の戦争を経験したと仰いましたよね?」
 ボクは、女神の真意を探る決意をする。

「そうですね。人類は、第三次世界大戦の引き金を引くほど愚かでしたが、全ての人類を滅亡させるほどには、愚かではありませんでした」

「ある程度の人類は、生き残っていた……と?」
「大国同士の核ミサイルの応酬も、全てが着弾したワケでも無ければ、全てを使い切ったワケでもありません。互いに、取り返しのつかないくらい多くの命が失われたところで、戦争は終わったのです」

 それでも十分に、愚かしいコトだ。
死んで行った者の中には、子供も大勢含まれていただろうに。

「核戦争の影響で地球環境は変動し、寒冷な気候の時代が到来しました」
「皮肉なモノですね。人類の活動が弱まったのが、原因なのでしょう」
 ミネルヴァの言葉を、メリクリウスが揶揄(やゆ)する。

「そして人類は、地球から抜け出し宇宙へと活動領域を広げた。大企業同士による、本格的な宇宙の領土争いが幕を開けたのだ」
 アメリカが月に人類を送り込んだ計画と、同じ名前の男が言った。

「その頃には旧来の国家は、力を失っておりました。代わりに巨大な資本によって育ったモンスター企業が台頭し、企業国家となって宇宙時代の派遣を握って行ったのです」
 ケレースが、寂しそうな声で語る。

「つまり、誕生したばかりの企業国家同士が、戦争を行ったんですね?」
「戦争と呼ばれるほどに長い戦いは稀であったが、武力衝突はやはり頻繁に行われたのだ」
 月の女神が言った。

「それから人類は、月を皮切りとして宇宙に拠点を建設し、フォボスを前哨基地として火星の開拓にも着手したのだ」

「地球で眠っていたハズのボクの冷凍カプセルが、フォオスへと運ばれたのもそんな混乱の時代だったのかも知れませんね」
 ボクは、亡き時澤 黒乃の名前を出すのを、踏みとどまる。

「だがよ。言うほど人類の歴史は、血塗られてねェじゃねえか。特に、宇宙に進出してからなんてよ」
 バックスが、悪態をまき散らしながら言った。

 ミネルヴァを始め、丸テーブルに集った神々は沈黙する。
触れてはいけない話題であるのは、間違いないと思った。

「『時の魔女』……」
 ボクはあえて、そのワードをテーブルの議題として乗せる。

「人類はかつて、時の魔女と戦争をしたのでは、ありませんか?」
 神々の顔を観察するも、誰もが目を逸らし青褪めていた。

「オイオイ。なに言ってやがるよ、じいさん。そんな歴史はオレの記憶にも、コミュニケーション・リングの記憶にも無いぜ」
 バックスが、自らとマクロな記憶の2つを頼りに、ボクの意見を否定する。

「魔女との戦争の記憶は、意図的に消されたんじゃ無いでしょうか?」
 1000年の眠りから覚めたこの時代、人の記憶の操作は容易であると知った。

「バカ言ってんじゃェよ。そんなハズ……は!?」
 反論しようとするバックスの顔が、次第に青褪める。

 ディー・コンセンテス会議に集った他の神々が、否定しようとはしなかったからだ。

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