ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP008

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驚異のルーキー

 料理教室を後にしたボクたちは、家に帰って来ていた。
ガラス戸の向こう側はもう真っ暗で、星がキラキラ輝いてる。

「ねえ、奈央」
 ボクは、カーテンを閉めながら言った。

「料理教室って、前から通ってたの?」
「ん~、4月の半ばくらいからね」
 エプロン姿の幼馴染みの女のコが、キッチンで背中を向けたまま答える。

「どうして料理教室なんか、通おうと思ったんだ?」
「相変わらず、家だと普通に喋れるわね」
「うっさいなぁ。いいだろ」

 テレビのリモコンに手を伸ばし、チャンネルを変えるとサッカーがやっていた。
名古屋リヴァイアサンズの、クラウド東京スカ―フェイスとのアウェー戦。
今、倉崎さんは、東京で戦っているんだ。

「最近、カーくんも頑張ってるじゃん。わたしも少しは、頑張んないとダメだな~って思ってさ」
 包丁が、まな板を叩く音が聞こえる。
以前はもっとゆっくりで、ぎこちない音だったのに。

「プロの世界は、頑張ってるだけじゃダメなんだ。ちゃんと、結果を残さないと……」
 薄型テレビの中の倉崎さんが、左からのクロスをボレーでゴール右隅に流し込んだ。

『倉崎の先制ゴール。今季、6点目。開幕からの連続得点も続いています』
『おっと、クラウド東京はいきなりの選手交代だ。中盤でゲームを組み立てていたバビントンに替わって、新人を投入しますね、末林さん』

「カーくんも、紅華さんや亜紗梨さんも、一応はプロなんだよね?」
「まだ地域リーグに加盟が認められるかも解らない、出来立てのチームだケドね」
「それでもスゴイよ。まだ高校生なのに、サッカーでお金貰ってるんだから」

『バビントンは先ほどから、左脚を引きずっていましたからね。これは、仕方なくの交代でしょう』
 プロには、ケガだって付き物だ。
その中で、結果を残し続けなきゃならない。

「はい。今日はカーくんの好きな、カレーだよ。こないだ亜紗梨さんに、教わったんだ」
 リビングに、美味しそうなカレーの香りが充満した。

「ねえ、奈央……」
「ん、なに?」

「奈央って亜紗梨さんのコト、どう思ってるの?」
「ふえッ!?」
 幼馴染みの手から、コップが落ちてテーブルに水が広がる。

「ど、どど……どうって、優しい料理の先生よ」
 頬を真っ赤に染め、慌てふためいていた。

『いやあ、これはまた大柄の新人ですねえ、末林さん』
『身長は、2メートル近くあるんじゃ無いですか?』
 東京のピッチに、褐色の肌の大男が足を踏み入れる。

「いきなりヘンなコト言うから、水こぼしちゃったじゃない!」
 布巾でテーブルの水を拭きながら、奈央は必死に反論していた。

「あッ!!?」
 ボクは思わず、大声を上げてしまう。

「うわあ、こ、今度はなにィ!?」
「し……死神だ……」
「イヤァ、脅かさないでよ。わたしがホラー、苦手なの知ってるクセにィ!」

『彼は美堂 政宗、まだ高校1年とのコトです』
 背番号13を付けたその選手は、長いドレッドヘアを靡かせながらゆっくりとセンターサークルに向って歩いて行く。

『資料では、身長は197センチとのコトです。これは驚きました』
『これだけの身長で、高校1年ですか。にわかに信じられませんねェ』

 死神の異名を持つ美堂さんとは、フットサル大会で対戦していた。
キーパーとして出場したボクは、何度も死神にゴールを割られ、後半だけで10点を取られる。

「べ、別に亜紗梨さんとは、なんでも無いんだからね。勘違いしないでよ」
『さあ、美堂がどんなプレイを見せるのか、非常に愉しみです』
『体格を活かした、力強いプレイを期待しますね』

「そりゃあ顔は美形だし、料理も裁縫も上手でスゴイなあって思うケド……」
『FWの木場から、美堂にボールが渡った!』
『おお、いきなり来ましたよ。強引に突破です!』

「亜紗梨さんにだって選ぶ権利があるって言うか……もう、彼女さんも居るんじゃないかしら」
『名古屋の14番、倉崎とのルーキー対決ですねえ、末林さん』
『ええ。年齢は2つ年上の倉崎が、どう迎え撃つか……目が離せません!』

「ねえ、カーくん。チョット聞いてる!?」
「うるさいなあ。今、良いトコだから黙ってて!」
 ボクはいつの間にか、テレビの試合に夢中になっていた。

「もう、カーくんのバカァ!!!」
「ぶはッ!?」
 奈央はボクの顔にクッションを投げつけて、リビングを出て行った。

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