ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第五章・EP009

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トレード

「今日は、デッドエンド・ボーイズのメンバーも一気に増えたよな」
 その日の夜、ボクは自宅に帰って、風呂場でその日あったコトを思い出していた。

 柴芭さんと金刺さんが選手として加わって、セルディオスさんが監督になってくれた。千鳥さんは、出向とかいうヤツみたいだケド……」
 湯気で白くなった天井を見つめる。

「でも人数が増えたってコトは、ボクの出場枠もかなり危うくなって来たのかも。このままドンドン凄いメンバーが増えたら、いずれはチームを追い出されるんじゃ……」

「ねえ、カーくんまだぁ。後がつかえてるんですケドォ」
「なんだよ、奈央。自分家にだって風呂はあるだろ」
「今日は親が泊りなの。わたし一人で入るの、もったいないでしょ」

「仕方ないなあ。今出るよ」
 タオルを巻きつけ脱衣場に出ると、ブカブカのTシャツ姿の幼馴染みがいた。

「ふ~ん。しばらく一緒に入ってないウチに、たくましくなったね」
「一緒に入ってたのなんて、小学校低学年までじゃなか。そりゃあボクだって、成長はするよ」

「まあ、身体だけは大きくなったよね。昔はわたしより、小さかったのに」
「中身は子供のままだって、言いたいんだろ」
「それはある。まだまだ子供っぽいモン」

 奈央はスカートの横のフックを外すと、大きなTシャツから伸びた脚を後ろに曲げて、落ちたスカートをすくい上げた。

「これでもボクなりに、考えてるんだ。中々上手くいかないケド」
「高校生でプロ契約してもらえたんだから、上手く行ってるじゃない」
「そりゃあ……でも、いつクビになるか」

「プロって、そう言う世界でしょ?」
 う……反論できない。
確かに、奈央の言う通りだ。

「まあ、頑張りなよ。わたしも、応援してあげるから」
「な、何だよ、偉そうに」
「はいはい。乙女が着替えるんだから、出てって、出てって」

 ボクは、脱衣場を追い出される。

「着替え……まあいいか、新しいのを出そう」
 ボクはタンスから新たな服を出して着ると、オレンジジュースをコップに注いでソファに座った。

「今日は、倉崎さんの試合があるんだ。しっかり観ないとな」
 薄型テレビに、広島のスタジアムが映る。

「ここは5万も入るスタジアムだケド、満員だな。最近のリヴァイアサンズは、倉崎さんが鮮烈デビューして人気が上がってるよね」
 巨大な観客席に、それぞれのチームカラーの旗(フラッグ)が揺れ、入場テーマが鳴り響いた。

『いやあ。この巨大なスタジアムに、割れんばかりの歓声ですよ、末林さん』
『広島のサポーターも、恐らくは倉崎のプレイを見に来たんではないでしょうかね』
 いつものお調子者の解説の人が、調子のいいコトを言ってる。

『えー、ここで少し残念なお知らせがあります。長年オーシャンズのキャプテンとしてチームを牽引してきた江坂選手が、チームを離れ2部の長野への移籍が決まってしまいました』

 ……え、江坂選手が、移籍!?

『そうですか。最近は出番も減っていて、倉崎を中心としたチーム作りでしたからね』
『江坂選手の強引な突破からのシュートは魅力的ですが、ショートパスを繋いで、完全に崩し切ってからフィニッシュを狙うチームのコンセプトとは、合わなかったのかも知れません』

 江坂選手は、ボクが小さい頃からチームのエースで、ファン感謝デーでは無口なボクに快くサインをしてくれた。
そんな江坂選手が、移籍だなんて……。

『残念ではありますが、新天地でも頑張って欲しいモノですね』
『江坂選手の長年の経験とキャプテンシーが、長野でも発揮されるコトでしょう』

 試合は、倉崎さんの1得点2アシストもあって、リヴァイアサンズが4-1と勝利を収めた。
試合後、サポーターから花束を送られ、名前をコールされる江坂選手。

「江坂選手クラスでも、こうやってトレードされてしまうんだ。ボクも、もっと頑張らないと……」
 居ても立ってもいられず、ボクはボールを持って庭先でリフティングを始める。

「アレ。カーくん、居ないと思ったら、こんなところでなにやってんのよ?」
「ボクは、みんなより劣っている。紅華さんほどドリブルは上手くないし、雪峰さんみたいな冷静さやキャプテンシーも無い」

「お風呂上がりでリフティングなんかしたら、汗になっちゃうよ」
「黒浪さんみたいな凄まじいスピードも、杜都さんみいたいな強い身体も無い」
「チョット、聞いてる!」

「ねえ、奈央。ボクの魅力って、なにかな?」
「ふえ……どど、どうしたのよ、唐突に!?」

「自分のコトって、自分じゃよく解らないんだ」
「そ、そうね、カッコいいとこかしら。最近アンタ、背も伸びてカッコよく……」

「真面目に答えてよ!」
「えええッ!?」

 その日、ボクは晴れない気持ちのまま、夜遅くまでリフティングを続けた。

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