倉崎の決断
アレからボクは、またスカウト活動を始めた。
倉崎さんが、雪峰さんにダメ出しをされまくったあの日……。
「いいですか、倉崎さん」
雪峰さんが、普段かけてる伊達メガネを中指でクイッと上げながら、言った。
「サッカークラブを運営すると言うコトは、経営のノウハウが必要なんです」
「ど、どう言うコトだ、雪峰?」
「小規模クラブの社長とは、経理、営業、人事、広告宣伝、法律、税金関連まで、全てに精通して置く必要があります」
「そ、それは無理と言うモノだろう。オレは、プロサッカー選手でもあってだな……」
「オレも、そう思います。どうしますか?」
「ど、どうするとは?」
「簡単に言えば、クラブ経営は諦めて、プロサッカー選手一本でいくかどうかです」
「オイオイ、雪峰。いきなりとんでも無いコト聞いてんな」
「紅華、お前はなんで、倉崎さんのチームに入ったんだ?」
「そりゃオメェ、ウチにも色々事情があんだよ」
紅華さんの事情って、実家の美容院のコトなんだろうか。
「サッカーやって、金が貰えるって聞いて……お前こそ、どうなんだ?」
「オレか。オレはとりあえず、進学校に入ってIT関連の勉強をする予定でいたが……」
「サッカーで金を貰えなくても、生活に支障はないってか」
「ああ。だが、プロサッカークラブを運営すれば、お前のように生活のかかった人間と、契約するコトになる。生半可にやっても、迷惑を被る人間が増えるだけだ」
「だけど、オレたちは学生だろ。月々の給料たって、バイトくらいじゃん」
「だが、例え月五万の給料だと仮定しても、三人で十五万、年間にすれば百八十万だぞ」
「ゲゲ、そんなにかかるのかよ。ウチのお袋も、従業員を雇えないワケだぜ……」
「それに、サッカーは十一人でやるスポーツ」
更に現実的な数字を見せつける、雪峰さん。
「選手登録ともなれば、最低十五人は集める必要があります」
「そ、それって、一体いくらになんだよ!?」
「つまり給料五万で計算しても、年間で九百万の資金が必要」
「く、倉崎さんって今、リヴァイアサンズからいくら貰ってんの?」
「現時点でA契約になる見込みが高いが、それでも三百万くらいか」
「ぜんぜっん足りね~じゃん。クラブ運営っていくらかかんだよ!」
「何を言っている、紅華。今言ったのは人件費。運営費の一部に過ぎん」
「え、それじゃあ……」
紅華さんの隣で、倉崎さんも蒼ざめてる。
「他にもホームグランドや練習場の利用料、チームの広告宣伝費、スタッフの経費など色々とかかりますね、倉崎さん」
雪峰さんの目、決断を迫ってる目だ。
「ど、どうすんだよ、倉崎さん!」
ど、どど、どうするの、倉崎さん!?
ボクも思わず駆け寄り、拳を握っていた。
「オレは、デッドエンド・ボーイズを創ると……決めたぞ」
倉崎さんは、それだけ吐き出すのがやっとだった。
「これで倉崎さんも、正式に『行き詰った少年たち(エッドエンド・ボーイズ)』の、仲間入りっスね」
「ああ……こりゃプロで、ガンガン稼ぐしか無さそうだ」
「雪峰、お前はどうする。学業に専念するか?」
「まあこの現状じゃあ、辞めんのもしゃ~ないわな」
「誰が辞めるなどと言った」
「え。そうなの。てっきりやる気を無くしたのかと?」
「むしろ逆だ。久しぶりに、面白いミッションに巡り合えたと思っている」
「変わってんなあ、お前」
「だが、感謝するぞ、雪峰」
「礼はいいです。それよりまず、スポンサー集めが必要かと」
「ス、スポンサーか。今のうちに付くとも思えんが」
「その為にもまず、チームのホームページを作りましょう」
「ホームページ……幾らくらいかかるんだ?」
「コードはオレが書きますから、サーバー代とドメイン利用料くらいかと」
「ま、任せたぞ、雪峰!」
そんなコトがあった日から数日が過ぎ、ボクは名古屋北部のある場所にいる。
はっきりとしない空から、大きな輸送機が降りてきていた。
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