ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第17話

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苛立ち

「そうですね、先生。放って置いても、騒ぎは勝手に大きくなるでしょうし……」
 クララはそう言うと、真っ赤なポニーテールをボクに向け、自分の席に着いた。

「マーク先生も、自己紹介は済みましたか?」
「オー、まだぜんぜん話し足りませんが、自己紹介としては長すぎましたね」
 マーク・メルテザッカーは、すんなりとボクに教壇を明け渡す。

「では、授業を始める。みんな、席に着いてくれ」
 マーク先生とユミアの関係に、心を持って行かれていた少女たちの騒めきは、しばらく収まるコトは無く、授業を軌道に乗せるのにも苦労した。

 1時間の授業はあっという間に終了し、高校までは聞き慣れていたチャイムが鳴る。
教育が民間へと移行してからは、久しぶりに聞く音色だ。

「フー、終わった終わった」
「コラ、レノン。今日の授業は、気もそぞろだったぞ」
「え~、だってユミアとマーク先生のコト、気になるじゃん」

「アロアもメロエも、授業中にスマホをいじってばかりだったじゃないか」
「先生、それどころではありませんわ。ユークリッターをご覧ください」
「ユミアさんとマーク先生の話題が、とんでもないコトになっておりますわ」

「お前たち、授業中は授業に集中してくれよ」
「せやったら今は休み時間やから、スマホに集中しても問題あらへんな」
「キア……それはそうなんだが……」

 少女たちはスマホの世界に夢中で、ボクの言葉などどこ吹く風だった。

「それじゃ次の授業は、ちゃんと集中して聞くんだぞ」
 ボクはため息を吐き出し、天空教室を後にする。

「もっと魅力のある先生なら、ああいった状況でも収められるのだろうか?」
 義務教育があって国がある程度の教育を担ていた時代でも、先生は疎まれる存在であるコトが殆どだったし、授業も多くの生徒にとって有り難くないモノだった。

「今のままじゃ、彼女たちの学力を一定レベルにまで上げるなんて、到底無理だ」
 エレベーターホールから、外の見渡せるゴンドラに乗って地上へと向かう。

「レノンもメリーが観てくれているお陰で、いくらかは学力が上がっているが、まだまだ不安だ。キアもあんな事件があって、出遅れているし……」
 ガラスには、余裕の無さそうな男が映っていた。

「元はといえば、マーク先生が原因だ。いくらアメリカ育ちとは言え、先生が初対面の生徒にいきなりプロポーズとか、あり得ないよな。まったく……」
 よく解らない、苛立ちの感情がこみ上げてくる。

 そうこうしているウチに、地上が迫って来ていた。

「ヤレヤレ、これはまた、すごい量のマスコミだ」
 下界では、ユミアとマーク先生の格好の話題に喰らいついたマスコミが、大量に待ち構えている。

「仕方ない、地下駐車場にタクシーでも呼ぶか」
 ボクはゴンドラの中で、スマホを取り出しタクシーを手配しようとした。

「タクシー呼ぶのって、このアプリで合ってるよな。起動はしたものの、さっぱり解らん。どれを押せば、配車ができるんだ?」
 ユミアとは逆で、デジタルが苦手なボク。

「クソ、デジタルってのは、どうしてこうも融通が利かないんだ」
「融通が利かないのは、キミの方じゃないかな?」
 背中から、声がした。

「く、久慈樹社長……」
「キミにしては珍しく、苛立っている様だね」
 チャラチャラと車のキーを鳴らしながら、涼しい瞳でボクを捉える。

「ボクが……苛立っている……?」
「どうやら気付いては、いなかったのかな。まあ、乗りたまえよ」
 ボクは言われるままに、助手席へと乗り込んだ。

 地下駐車場を急発進した高級外車は、クラクションでフラッシュライトの波を押しのけ、街中へと滑り出す。

「悪いが、少しばかり寄りたい場所があるんだ。付き合ってくれないか」
「ボクに、拒否権はあるんでしょうか?」
「イヤなら、好きな場所で降ろすよ」

「す、すみません……」
 自分でも、自分が苛立っているのを実感した。

「どこへ、行くんでしょうか?」
「なあに、墓参りだよ」
「墓参り?」

「別に、命日ってワケじゃないが、アイツの……な」
 ボクは、それが誰のコトか直ぐに理解する。

 車は、来た時とは別の高速に乗って街を出た。

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