ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・30話

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ミサイル防衛網

 火星の星空の下に、浮かぶ塔。
1000年の昔に子供だった頃に見た、プラネタリウムのポスターみたいな光景。

「はじめまして、ミネルヴァさん」
 ただの平凡な高校生で、何となく家に引き籠っていたボクは、自分の全てが嫌いだった。

「ボクは、群雲 宇宙斗です」
 けれども両親が与えてくれた、『宇宙斗(そらと)』と言う名前は、ボクを形作る様々な構成要因の中で唯一気に入ったパーツだった。

「群雲 宇宙斗……古めかしい名ですね。かつてあった、島国の出身でしたか?」
 ミネルヴァが言った。

 彼女の背後から、地球で見るよりわずかに小さな太陽の光が差し込んで、逆光で見えづらい。
けれども、長い髪をした女性であるコトは確認できた。

「ボクは地球の、日本と呼ばれる国で生まれました。1000年後のこの世界には、ボクの時代の国家は全て存在しないんですよね」

「ええ。1000年もの永きに渡って存続しうる国家など、存在しませんからね」
 居並ぶ12の椅子の長である彼女の言葉には、威厳と圧力が同居していた。

「ボクの母国である日本は、2000年の歴史がある国なんて呼ぶ人も大勢いました」
 少しばかり、反論して様子を探る。

「えっと、それはどうでしょうかね。日本は南北朝時代、主権者である天皇が同時に2人存在して争い、戦国時代は国が分裂して統一国と呼べる状況では無かった。そして宇宙斗艦長の時代は、アメリカとの戦争による敗戦で、主権者は天皇から国民になった……とのコトです」

 メリクリウスさんが、コミュニケーション・リングで得た情報を、円卓を囲む12神に提供する。

「それだけ体制が変って置いて、よく同一の国家が存続したなどと言えたモノだな」
「天皇とか呼ばれる一族が、単に2000年の命脈を繋いだに過ぎない」
「少なくとも民主制を敷いてからは、主権者は天皇では無いのだから同一国家などではあるまい?」

 オリュンポス山に集った神々から、様々な反論が飛んだ。
けれどもそれらは、太陽系の長である女性によって沈黙させられる。

「宇宙斗……アナタの時代から、我々人類は何度も戦争を経験して来ました。宇宙規模にまで拡大した戦火は、とてつもなく大勢の人の命を奪っていったのです」
「人類は必要以上に大きな力を、持ってしまったのかも知れません」

「まず最初に、アナタに地球をご覧に入れましょう」
 ミネルヴァが目を閉じると、円卓テーブルの中央スクリーンに蒼い星が投影された。

「良かった。地球は現在もまだ、蒼い惑星だったのですね」
「いえ、違いますよ、宇宙斗艦長。これは恐らく、1000年前の時代の地球です」
 同行していたクーリアが、ボクに告げる。

「そうです。そしてその後、戦争の引き金が引かれた……」
 目の前に地球に、赤いバツ印が次々に打たれる。

「このバツ印は……?」
「核攻撃によって、被害を受けた都市です」
「核兵器が、再び使われたのですか!?」

「第三次世界大戦が、始まったのですよ」
 ミネルヴァの瞳が、紅く光った気がした。

「第三次世界大戦だって。そんなにも簡単に……一体、いつから?」
「艦長が眠りに着いて直ぐのコトだと、思いますよ」
「でも日本は……経済が衰退して消滅したって、セノンが……」

「それは大戦後の話ですね。悪の枢軸国であるアメリカ側に付いた日本が、そうなるのは」
 メリクリウスは、目を細め微笑んだ。

「当時の日本は、普通に平和だったんだ。それが、どうして急に!」
「たまたま平和に見えた……の、間違いであろうな」
 アポロが、口を挟む。

「当時の日本人は、いささか平和ボケしてたんでしょうねェ。例えばミサイル防衛網。それさえあれば敵国の核ミサイルからも安全に護られているなんて、勘違いしているおバカさんたちが大勢いたんでしょう」

「ミサイル防衛網が……役に立たないとでも?」
「無論だ、防衛ミサイルの性能を見たが、話にならん」
「有効射程2~30キロで、どれだけの範囲がカバーできると言うのですか」

 確かに狭い日本と言えど、防衛ミサイルがそれだけの射程しか無いのであれば、全国に何千台と配備しなければならない。

「それに当時は、中国やロシアなどのミサイル性能も飛躍的に進歩しています」
「マッハ6での巡行が可能な極音速ミサイルが一般的になってにも関わらず、防衛ミサイルは更新されていないではないか」

 過去の歴史を他人事のように振り返る、アポロとメリクリウスの会話。

「元々、マッハ6で飛ぶ飛翔体にミサイルを当てるなど、アナタの時代では不可能でしょうね」
「新幹線ですらマッハ1の、4分の1程度のスピードでしか出せない。マッハ6のスピードで飛んでくるミサイルを迎撃するなんて、無理なのか!?」

「大陸から日本に、数千発のミサイルが降り注ぎました。主要都市や主要基地は壊滅し、そこに空母打撃群が襲い掛かったのです。制海権も制空権も奪われ、東京が占領されるに当たって同盟国であるアメリカも手を引き、日本は敗北したのです」

 ミネルヴァが、吐き捨てるように結論をまとめる。

「それじゃあ日本は……ボクの両親や、友達は!?」
「戦争に巻き込まれて亡くなった方も、大勢いるでしょうね」

 1000年が過ぎた今、ボクは自分がいかに平和ボケしていたのかを気付かされた。

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