ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第18話

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リメンバー・サマー

 郊外へと流れ出る道は、高速と言えど車はまばらで、高級外車は気持ち良さそうに走っていた。

「どうだい。マーク・メルテザッカーの印象は?」
 クラッシックなミッションを、手際よく操作して車を加速させる久慈樹社長。

「そうですね。アメリカ育ちなだけあって、破天荒な人だとは思います」
「それだけ?」
 悪戯っぽい言葉で、ボクに更なる感想を要求(リクエスト)する。

「率直に、良い人であると感じました。無邪気な少年みたいに好奇心に満ちていて、好奇心の向いた方向に突き進むタイプと言うか……」
 けれども、上手く言葉が纏まらない。

「そうかそうか、中々に的を射た答えじゃないか。フフ……」
 若き社長は、ダッシュボードからサングラスを取り出しながら微笑む。
郊外の眩しい日差しを避けるための、遮光タイプのモノだろう。

「なにか……可笑しかったですか?」
「イヤなに、昔のコトを思い出していたのさ」
「昔のコト?」

「ああ、アイツがまだ元気だった頃の、話さ……」
 ボクの左側でハンドルを握る久慈樹 瑞葉は、少し寂しそうに言った。

 恐らく、この車の行きつく先も、『アイツ』と呼んだ男の眠る場所だろう。
高速の周りの景色も、木々が生い茂る山や森に変っていた。

「アイツもマークほどじゃないが、自分の好奇心に忠実に行動するタイプだった。正しいと思える道を突き進もうとする点に置いては、キミに近いとも言えるがね」
「倉崎 世叛が、ボクに?」

「今じゃ、伝説なんかにされちまってるが、アイツもただの人間さ。天才プログラマーではあったがね」
 言われてみれば、その通りだ。
ボクもマスコミや世論が生み出す、架空の英雄像を見ていたのかも知れない。

「あれは、アイツと出会った高校一年の夏だったか……」
 そこから話は、久慈樹社長の想い出へと飛ぶ。

 蒼穹の空に、白く浮かんだ入道雲。
木々は葉を青々と茂らせ、ゴツゴツとした幹にはセミが暑さをしのいでいる。

「妹が……アメリカ野郎と結婚をしていたらしい!」
 日焼けした高校生が息を切らせ、木陰で涼んで音楽を聴いていた高校生に話しかけた。

「オイオイ、いきなり何を言い出すんだい。キミの妹はまだ、小学生じゃなかったか?」
 サラサラヘアの高校生は、耳に当てていたヘッドフォンを外し答える。

 2人とも、同じデザインの白いシャツに黒いズボンで、2人が居たのも高校の敷地内だった。
校舎の窓には、『教育民営化法案・断固反対』の垂れ幕が、あちこち掲げられている。

「その通りだ。まだ小学生の、いたいけな少女に手を出すとは。しかも、同居までしているんだぞ。とんでもないロリコン野郎が……」
「まあ、落ち着けって。今いち話が見えて来ない。詳しく聞いてやろう」

「そ、そうだな、スマン。実は……」
 冷静さを取り戻した倉崎は、久慈樹 瑞葉にコトの詳細を話す。
妹である瀬堂 癒魅亜が、ネットゲーム内でマーク・メルテザッカーと結婚していた経緯を。

「クッ……ククク……アハハハハ!」
「な、なにが可笑しい!!」

「何がって、これが笑わずにいられるかい。結婚と言っても、ゲーム内の話なんだろ?」
「ゲームの中とは言え、結婚は結婚だ。しかも、アメリカに住んでいるヤツと!」
「だが相手も、結婚相手が小学生の女の子とは知らなかったんだろ?」

「ま、まあそうなんだが……本気で狙っているのかも知れん。やはり一刻も早く、叔父さんの家から妹を連れ出して、一緒に暮らさねばならんな」

「キミのシスコンぶりにも、ホトホト呆れるが……まあ動機はなんにせよ、孤児院で暮らしていたキミが妹を引き取るには、もっと事業を拡大する必要がある」

「オレも、そう考えていた。まずは今のサイトの質を高めねばな」
「そうだね。これから学校が消えようとしている今、動画で授業を配信するのは良いアイデアだ。実際にキミがマンションで暮らせるくらいの金は、稼げているワケだしな」

「だが教師がオレでは、拡大も頭打ちだ。手をこまねいていれば、ライバルに先を越されてしまう」
「……とは言え、この学校の教師の何人かに声をかけてみたが、真面に取り合ってくれるヤツもほぼ居ないワケだ。さっさと教民法が施行され学校が潰れてくれれば、ヤツらの気も変わるかも知れんが」

「早急に、優秀な教師の確保が必要だな。どこかに、良い人材は居ないモノか」
「そうだね、キミの妹なんてどうかな?」

「ふざけているのか、お前は?」
「イヤイヤ、至ってマジメだよ。ユミアちゃん……教師に向いているんじゃないか」

 高校生時代の、久慈樹 瑞葉の提案。
それは少し先の未来で、現実となった。

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