力の根源
クーレマンスがまだ、ガラ・ティアと矛を交えていた頃、舞人とヤホッカ、ミオッカ、イナッカの3人の獣人娘は、2体の魔王相手に苦戦を強いられていた。
「ブハッ、キ、キミ、大丈夫?」
「ナゼか大丈夫だぞ、アタシはイナッカ。覚えろ」
海面から何とか顔を出した、2人。
「こ、ここは、どこだァ?」
「どうやら、海中に沈んだ建物の中だよ。空気がまだ、残ってたんだ」
蒼いボサボサ髪の少女の質問に、答える舞人。
「ヤ、ヤホッカと、ミオッカはどうしたのだ!?」
「わ、解らない。敵に、やられちゃってなきゃいいケド」
「2人が、やられるワケ無いのだ……あ、あっちだ!」
天真爛漫な獣人娘は、仲間の居場所を嗅覚で突き止めると、海に潜って行ってしまった。
「うわあ。まだ魔王が狙っているハズなのに、迂闊に動きすぎだよォ!」
舞人も仕方なく、海に潜って後を追う。
水没した建物の窓から外に抜け出し、辺りを見回す。
(ど、どこに行った……ん、アレだ!)
するとイナッカの姿があり、さらにその先に2人の獣人娘の姿があった。
舞人も、必死に息を堪えて近づく。
(く、黒い影が……魚、イヤ、サメみたいなヤツが!?)
敵の脅威を感じた、舞人。
(魔王の1体だな。2人の獣人をエサに、イナッカを誘ってるんだ)
魔王ベク・ガルの意図を読み取ったが、海中ではイナッカに伝える手段がない。
(ここは、ボクが魔王に仕掛けるしかない。強化されてるとは言え、息が持つかが心配だケド……)
イナッカに牙を剥こうとする、魔王ベク・ガルに向って泳ぐ舞人。
ジェネティキャリパーによって強化されているので、それなりに早く泳げた。
「ないィ!?」
漆黒の剣が、魔王を弾き飛ばす。
(イナッカ、無事か!)
舞人が目を向けると、イナッカたち3人の獣人を触手が捕らえていた。
(しまった、もう1体の魔王の触手だ。なんとかしないと!)
舞人は素早く泳いで触手を断ち切ると、3人を抱えて空気のありそうな建物へと逃げ込む。
「ブハァッ……ハアッ、ハア!」
止めていた息を、目一杯空気を吸い込んで補給する舞人。
「ガハッ……ゼエ、ゼエ」
イナッカも、海面から顔を出して息を吸った。
「だ、大丈夫。他の2人は?」
「サメの魔王にやられて、血まみれだケド息はしてるな」
建物は、前に居た建物よりも空気が残っており、イナッカは2人を沈んでない床へと引っ張り上げる。
「オイ、起きろ。サメに喰われちまうぞ」
「ん~、アイタタタ。もう朝か?」
「それにしても身体中が、痛いのだ」
ムクっと起き上がる、2人の獣人娘。
全身が血まみれだったが、さほど気にしていない。
「キミたち、酷いケガだけど大丈夫?」
「アタシら獣人は、生命力が高いからな。ほっときゃ、回復するよ」
紫色のツンツン頭の獣人娘が、言った。
「アタシは、ヤホッカ。助けてくれて、アリガトな」
「アタシは、ミオッカ。それにしてもにーちゃん、勇者だけあってスゴイな」
もう1人の、黄色いクルクルヘアの獣人娘が、舞人を褒める。
「剣で、強化されてるからね。魔王を女のコに変える能力は、まだ使えないみたいだケド」
「へー、便利な剣だな」
「まあ……ね」
浮かない顔の、蒼髪の勇者。
彼は、過去の記憶を思い出していた。
「それは、『危うい力』じゃよ、ご主人サマ」
美しく透き通った声が、舞人に忠告した。
声の主は、漆黒の髪の少女。
長い髪をソファーに垂らし、片肘を付いて紅い瞳で主を見る。
「どう言うコトだよ、ルーシェリア。危うい力って……」
部屋には暖炉が焚かれ、窓の外は星が瞬(またた)いている。
「ご主人サマの剣・ジェネティキャリパーの、身体強化能力がじゃよ」
「だからどうして、身体強化が危うい力なんだよ?」
外では、幼い子らの無邪気な声が聞こえ、台所からはパレアナの料理の匂いが届く。
そこは、ニャ・ヤーゴの教会の別館だった。
「考えてもみるが良い。ご主人サマは、あの手練れの剣士とも、そこそこ戦えるのじゃぞ」
「雪影さんのコトか。まあ、確かにスゴい能力だとは思うケド」
「問題は、その力の源じゃよ」
「力の源って……このジェネティキャリパーだろ?」
蒼い髪の少年は、背中の剣を抜く。
「まあそうじゃが、ではジェネティキャリパーは、なにを媒体としておるのか?」
「さ、さあ。そんなの、解らないよ」
ルーシェリアの謎かけに、困惑する舞人。
「力の源は、妾たちから吸い取った『闇の魔力』じゃよ」
紅い瞳が、妖しく揺らめいた。
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