ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第28話

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兄妹の未来

「あの日……兄さんは、アイツを……あの男を家に連れて来たわ」
 瀬堂 癒魅亜の言ったあの男とは、久慈樹 瑞葉に他ならなかった。

 時は彼女の、幼き日の記憶へと巻き戻る。
それはボクや倉崎 世叛がまだ、高校1年だった夏の出来事だった。

「ユミア、今、叔父さんや叔母さんは居るかな?」
 少女の小さな耳に充てられたスマホから、優しい声が問いかける。

「……居ないよ。沖縄に旅行に行ってる」
「お前を置いてか。じゃあ、沙織と早苗も?」
「うん。2人とも、水着買って貰って喜んでた」

「小学生のお前1人置いて、泊りがけの旅行に行くなんて、なんてヤツらだ」
「わたしも誘われたんだケド……家でゲームやってる方がいいし」
「お前なあ……」

 スマホの向こうから聞こえるため息に、少女は口元を緩める。

「お兄様、今から来るの?」
「ああ。玄関、開いてるか?」

「い、今から開けるね」
 少女はスマホを切ると、自分の部屋を飛び出し、慌てて階段を駆け降りた。

「お兄様!」
 喜び勇んで、玄関の扉を開ける少女。
少女の大きな瞳に、夏の入道雲をバックに2人の制服姿の男が映る。

「やあ、キミがユミアちゃんかい。小っちゃくて可愛いねえ」
 サラサラとした髪の男が、爽やかな笑顔で少女に語りかけた。

……と、同時に少女の笑顔は消え、玄関の扉は再び閉ざされる。

「オイ、ユミア。玄関開けろ。まったく……」
「これは、想定以上のお姫様だねえ」
「悪いな、久慈樹。少し待っていてくれ」

 倉崎は、スマホを片手に妹の説得を始めた。
玄関の扉が再び開かれるまで、30分の時を要する。

「もう、なんで……どうして、お兄様1人じゃないの!」
「説明しようとしたのに、お前がスマホを切ったから……」
 不貞腐れた妹の膨れ面に、必至に弁明を始める兄。

「天才プログラマーのキミも、妹の前では形無しだねえ」
「うるさいな。だから、あまり連れて来たくは無かったんだ」
 倉崎は、妹の部屋に久慈樹を招いた事を、少し後悔する。

「それにしても、このパソコンやスマホの量は何だい?」
 部屋を隈なく見渡す、久慈樹。
部屋の至る所でパソコンが稼働し、スマホやガジェットがあちこち散乱していた。

「コイツは、極度のデジタル娘でな。部屋にあるパソコンは全て、コイツが自分で組んだモノだし、叔父さんを始めとするこの家の家族が使っているパソコンも全てそうさ」

「キミの妹って、まだ小学生だろ?」
「ああ、まだ8歳だ」
「マジか!?」

「お兄様……用事、済んだ?」
 8歳の少女が2人の会話を、鋭い視線で睨んでいる。

「どうやらボクに、さっさと帰って欲しいみたいだね」
「悪いが、まだこれからが本題だ。ゲームでもして、遊んでいてくれ」

「わかった……」
 少女は、胡坐をかいた兄を椅子にして、ゲームを始めてしまう。

「ゲーミング・チェアになった気分はどうだい?」
「黙れ。それより、さっさと本題に移るぞ」
「ああ、ボクは一向に構わないよ」

 倉崎 世叛は、レーシングゲームに興じる妹を、膝に抱えたまま話を始めた。

「まず、ユークリッドの今の動画は、オレのノートパソコンで作っているが、やはり限界がある」
「それで妹さんが造ったパソコンを、いただこうって寸法かい?」
「そうだな。施設にいた頃は、自分で物を所有できなかったが、今なら可能だ」

「児童養護施設か。前に聞いた話じゃ、他の子どもが欲しがるからって理由で、親類が子供におもちゃとか買ってあげるのもダメなんだろ」
「ああ、下らない平等主義ってヤツさ」

「平等に、持たざる者でいなくちゃならない……か。確かに下らないね」
「ま、悪い面ばかりとも言えんがな。少なくとも、金を稼ごうと努力する様にはなった」

「そんな環境で、プログラミングを身に付けたキミには、感服するよ」
「それでだが久慈樹。これだけのパソコンがあれば、金を稼ぐ事は可能か?」
「性能(スペック)次第ってところだね。起動させてみて、いいかな?」

「ダメ、全部わたしの!」
 レーシングゲームをしていた少女が、足をジタバタさせる。

「なあ、ユミア。これは、オレとお前の未来にとっても、大事なコトなんだ」
「……」
 少女は答えず、画面のGMAE OVERの文字をまっすぐ見つめていた。

「お前のパソコンを使って、金を稼いで2人で暮らそう」
「わたしのパソコンで……そんなコトが出来るの?」

「電子マネーのマイニングに、株の取引。それで得た金で、今の事業を拡大すれば可能じゃないかな」

 久慈樹 瑞葉は、少女に理解不能な言葉で説明した。

 

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