ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第19話

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白い墓

「どうしてボクに、そんな話をするんですか?」
 ボクは、軽やかにハンドルを回すドライバーに聞いた。

「そうだねェ。キミはどことなく、アイツに似てるからかな」
「ボク自身は、倉崎 世叛に実際に会ったコトが無いのでなんとも言えなませんが、彼はどんな人物だったんです?」

 山間を抜ける、高級外車。
向かう先に、蒼い湖が見えて来る。

「頑固で信念を曲げない、妹が大好きなシスコン野郎だったよ」
「……シ、シス!?」
「この先の丘の上にある教会の墓地に、呑気に眠ってやがる」

 フロントガラスの右側に、丘の上に建つ白い教会が映っていた。

「さて……と。花束なんか受け取って喜ぶヤツじゃないが、まあ一応の礼儀と言うヤツだ」
 車は教会の駐車場に停まり、若き社長はトランクの中の長細いクーラーボックスから花束を取り出す。

「オレンジ色の花束……お墓にお供えするにしては、変った色ですね」
「ああ、アイツはオレンジ色が好きでね。花の品種はよく解らんが、ヤツもそのヘンはこだわらないだろうから適当に買って来たのさ」

 花束は、白い墓の上に置かれる。
花びらの形からすると、百合の仲間だろう。
白とオレンジ色のコントラストが、何とも美しい。

「ここに……時代を変えた、英雄が眠っているんですね……」
 墓標には、『Johan Curasaki』と刻まれ、その下に彼の短い生涯の年数も書かれてあった。

「スペルが、おかしなコトになってるだろう。故人のたっての望みでそうしちゃいるが、ボクにも真意は謎のままさ」
 ボクの頭に浮かんだ疑問を、先回りして答える久慈樹 瑞葉。

「どうだい、良いところだろ」
「はい。キレイな場所ですね」

 小さな教会のこじんまりとした墓地からは、先ほどの蒼い湖が見える。
周りは細い鉄の柵と木々に囲まれ、レンガ作りの花壇には色取り取りの花が咲き乱れていた。

「倉崎 世叛。彼は、それまでの既存の学校教育を崩壊させた。そして自ら新たに、動画による教育を始めたんですね」

「その見解は、少しばかり違うかな。学校教育を崩壊させたのは、教育民営化法案であってユークリッドじゃない」
 社長はボクの隣に並んで、眼下の湖を眺めた。

「そうでしたね。当時の安齋総理のスローガン、教育も民間に移行すれば、より質の高い教育が得られる……とか言ってました」
「競争原理が働くからね。事実、教民法以前でも、学校より塾の方が質の高い教育を提供していた」

「ですが、学校によっては質の高い教育を提供出来ていました。全ての学校が、そうでは……」
 子供の頃から教師を目指してきたボクは、学校教育を否定されるとどうしても黙っていられない。

「だがユークリッドでは、全ての生徒に質の高い教育動画を提供している。名門学校の学費を払える、金持ちの親の元に生まれた子供たちだけじゃなく……ね」

 確かに久慈樹社長の言うように、ユークリッドの教育動画で教育の不平等はほぼ無くなった。
ネット環境が当たり前になった現在、最上級の教師による最高の授業動画を、好きな時に好きな場所で誰でも手軽に見られるのだ。

「ボクのやっているコトは……天空教室は、ただの茶番だと思っていますか?」
 恐る恐る、社長に問いかける。

「どうだろうねえ。茶番と言えば、教育そのものが茶番でしか無いからね。社会に出て必要な知識は、学校教育のうちのほんの僅かに過ぎないよ」

「はぐらかさないで下さい。ユークリッドの高度な教育動画がありながら、どうして貴方は天空教室を野放しにしているんです!」
 ボクは、自分の言葉の語気が強まって行くのに気付いた。

「学校教育を否定しておきながら、学校教育を模倣した天空教室まで動画にする意味は、何なんです。ボクや生徒たちを、見世物にする以外に理由がありませんよね!」

 着いた時は蒼かった空に、灰色の雲がかかる。
心地よかった風も、冷たさを増していた。

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