黄金剣
真っ白な巨大真珠貝は、時折り光を反射させ虹色に輝く。
深海の宝珠と呼ばれるそれの、圧倒的な防御力によって護られていた海の女王は、自ら貝の蓋を開いたため3本の槍の餌食となる。
「な……なんでだ。なんでアンタは、宝珠を開いたんだ!?」
バルガ王子の前で崩れ落ちる、海の女王。
巨大真珠貝は女王の赤い血で染まり、美しい青緑色の髪が零れた。
「オイオイ、こりゃ傑作だぜ。シャラ―女王自ら、分厚い貝の蓋を開いてくれたんだからよォ」
「マジ、信じらんな~い。頭おかしいんじゃないのォ?」
「ヤレヤレ、これでオデたちの任務も1つ、終わったな」
女王を刺し貫いた3本の槍の主である、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの手元に、それぞれの槍が戻る。
「ど、どうしてだ、お袋。どうして姿を現したァ!」
海の女王の元へと寄る、バルガ王子。
血に染まった女王を、両腕で抱きあげた。
「海皇ダグ・ア・ウォンと、海の女王シャラ―・ベラトゥによって支えられていた、海底都市を覆う泡のドームが完全に消え去る。カル・タギアの、終焉か……」
彼らを見守るように静観していた、紫色の海龍の魔王が呟く。
アクト・ランディーグの言葉通り、泡のドームは崩壊し海底都市に海水が激流となって流れ込んだ。
「このわたくしを……母と想ってくれるのですね……バルガ」
「いいから、喋るな。まだ、助かる道はある」
「いいえ、もう良いのです。わたくしには、自分の未来が見えておりました……」
バルガ王子の腕に抱かれる女王の身体から、生気が抜けて行く。
「アナタは、わたくしの実の子ではありません。もっと強大な、魔力を持った者の子なのです……」
「ああ、オレを魔性の王子なんて呼ぶヤツも、居やがったからなぁ」
「それでもわたくしを……母と呼んでくれるのですね」
「当たり前だ。オレにとっての母は、アンタしか居ねえ!」
バルガは、消えそうな母の手をしっかりと握る。
その間にもカル・タギアの至るところが水没し、海底遺跡へと生まれ変わろうとしていた。
「さて、それそろ母子の別れも済んだみてーだ」
「あとは王子を、コ・ロ・スだけ。キャハハ」
「地上から来た他の連中は、海ん中じゃ生きられねえからな」
3体の魔王は、再びそれぞれの槍を構える。
「じゃあな、王子」
「アンタ、けっこーイケメンだったから狙ってたのに、残念だわ」
「これで、オデたちの仕事も完了だな」
蒼流槍『ジブラ・ティア』、破黄槍『バス・ラス』、橙引槍『カニヤクマリ』が再び放たれ、バルガ王子目掛けて閃光の如き勢いで飛んだ。
「オレも、ここで……」
眼を閉じ、死を覚悟するバルガ王子。
「目覚めなさい、我が子の内に眠る剣よ」
女王が、息子の胸に手を当てる。
すると、バルガ王子の身体が眩く輝き始め、3本の槍を弾き飛ばした。
「な、なんだ。一体、何が起こった!?」
「アタシたちの槍が、全部弾かれちゃった!」
「ど、どうなってんだァ!?」
王子が発する光はさらに強さを増し、太陽のように眩く輝く。
そして彼の右手には、黄金色の長い剣が握られていた。
「この剣は、一体……お、お袋?」
左腕に抱える母からは、返事が返って来ない。
「……お袋、すまねえ……」
王子は母を、そっと深海の宝珠に横たえた。
「どう言うこった。王子の握ってる、あの剣はなんだ!」
「さあ。でも関係なくな~い。王子、殺っちゃえば良いんだしィ」
「女王も、死んだみてェだしな」
3体の魔王の槍が、三たびバルガ王子に向けられる。
「メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオ。テメーらも、あのサタナトスってヤロウに魔王にされちまって、憐れだよなァ」
魔王たちを見上げる、バルガ王子。
「ハア、オレたちは別に憐れじゃねえぜ」
「なにも出来ずにここで死んじゃう王子、アンタこそ憐れよ」
「そんじゃ、最後の仕事だな」
王子に向かって、槍を突き立て突進する3体の魔王。
「少しだけ眠ってな。いつか必ず、元に戻してやっからよ」
黄金の長剣を構える、ファン・二・バルガ王子。
「『クリュー・サオル』……」
王子は、自然に脳裏に浮かんだ、剣の銘を呟いた。
「な……これは、光が!?」
「きゃああ、眩しい!」
「う、うわぁぁぁ!?」
黄金の光に呑まれる、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの3体の魔王。
「お袋……アンタのくれたこの力で、オレは必ずこの海底都市を甦らせてみせるぜ」
光が収まると、そこには黄金の像となった3体の魔王が鎮座していた。
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