美しき鍾乳洞
「ナ、ナゼなの。地母神であるわたしと、この邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアの生み出す石化能力が、どうしてあんな坊やの持つ剣に劣るのよ!?」
ゲー・メーテルの身体に、楔(クサビ)のように打ち込まれたオシュ・カーの槍から、同心円状に広がるクリュ―・サオルの能力。
大地母神の身体に、黄金のひび割れが走った。
「アンタの身体には、既に黄金化を叩き込んであったんだ。それが撃ち込んだ、オシュ・カーの槍によって、表面化したに過ぎないぜ」
バルガ王が、ニヤッと笑う。
「叩き込んだって、いつの間にですかい!?」
「ベリュトスの投げ槍より、もっと前の攻撃よね?」
2人の側近が、王に伺いを立てた。
「最初にアイツと、斬り結んだときだ。オレも、ドレインを喰らっちまったがな」
「わたしの生命力吸収(エナジードレイン)をその身に受けながら、黄金化の能力を撃ち込んでいたと言うの!?」
「どうやらアンタの剣は、オレの黄金の長剣とは浅からぬ関係にあるようだ」
「海の民風情が、なにを言っているのよ。邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアは、この時代には天下七剣(セブン・タスクス)の1振りに数えられるのでしょう?」
「オレの剣は、オレを育ててくれた義理の母親である海の女王が、その命と引き換えに授けてくれた剣……だが、アンタとの戦いで改めてその正体が解ったぜ」
「剣の正体ですって。一体、なんだと言うのよ!」
激昂したゲー・メーテルは、身体が黄金のヒビに覆われているにも関わらず、バルガ王とその2人の側近に、攻撃を仕掛ける。
「この剣は、オレの体内にあった、黄金の力を引き出して生まれたモノだ」
「体内に黄金の力って……坊やは一体!?」
大地母神の大蛇のようなシッポが、バルガ王一行に巻き付こうと迫った。
「オレの身体に眠る、実の母の血が遺したモノだったのさ!」
長く円を描いたシッポが、バルガ王の剣が放った金色の光によって、黄金と化して落下して行く。
「……坊やの母親ってのは、誰なのよ?」
ゲー・メーテルは、失った尻尾を直ぐに再生させながら後退した。
「オレの母親は、『メ・ドゥーサ』。海の女王が、今わの際に教えてくれたぜ」
「そう……だったの。わたしは、わたしの半身の子と戦っていただなんてね」
ゲー・メーテルの顔から、荒ぶった怒りの表情が消えて行く。
「どう言うコトです、バルガ王」
「王の母君と、ゲー・メーテルに何の関係があるって言うの?」
「ゲー・メーテルとメ・ドゥーサは、元来は同じ神格の大地母神だったのさ。つまりオレの母親は、コイツの半身ってワケだ」
「ど、どう言うコトなの、ジャイロス団長?」
「そうですな。バルガ王の実の母君は、あのゲー・メーテルと身を分け合った存在。元は1つの大地母神だったのです」
「そ、それじゃあ、バルガ王の剣クリュー・サオルと、ゲー・メーテルの邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアは……」
「いわば、兄弟姉妹のような関係にあるのでしょう」
大盾を構えたジャイロス騎士団長は、背後の弓使いの少女に語った。
真実を知ったゲー・メーテルは、翼を畳んで洞窟の地面に降り立つ。
王と2人の側近も、逃げるのを止め地母神の前に立った。
「アンタの剣は、オレの剣と2つに分れた片割れだ。その能力も、天下七剣(セブン・タスクス)には遠く及ばねェ」
「そう……わたしより先に、それに気付くなんて……大した坊やね」
大地母神の身体に刻まれたひび割れが拡大し、その美しくも悍(おぞ)ましい身体が、徐々に崩れ始める。
「オレを育ててくれた、お袋のお陰だ。そうじゃなきゃ、アンタには勝てなかっただろう」
ゲー・メーテルの身体は岩となって崩壊し、岩は砕けて土へと還って行った。
「残念ね。でも、これで終わりではないわ。わたしはまた、復活する。その時こそは坊や……貴方の剣と……1つに……」
大地母神の声は、完全に聞こえなくなる。
「ああ。その時は、受けて立つぜ」
後には、3本の邪眼剣と、トカゲの姿の少女たち……。
それに色取り取りの花々に覆われた、美しき鍾乳洞が遺された。
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