恋人たちの未来
奈央と亜紗梨さんが、入ろうとしている駅前デパート。
昔はパッとしないお店しか入ってなくて、一時は閉店する噂があったケド、何年か前に改装されてからはお洒落な店も増えて、お客さんも戻ってきたみたい。
「よし、オレらも急ぐぞ」
紅華さんが駆け出し、ボクもくっついて行った。
「なんや、アイツら。世話しないやっちゃな」
「なあ、金刺。お前も付いてったら?」
黒浪さんが、千鳥さんと2人きりになろうと画策する。
「はあ、なんでワイがアイツらに、付いて行かなならんのや。今日は会社で動画編集の手伝いや。さっさと行くで、荷物持ち」
「クッソ~、なんでオレさまがコイツに……」
「クロくん。撮影機材、重いと思うけど大丈夫?」
「チ、千鳥さん。こんなのぜんぜっん余裕っス!」
黒浪さんは全身に、アルミ製の機材ケースを巻きつけながら、手ぶらな2人の後を追った。
「さて……と。まずはアイツらが、何の店に行ったかだな」
うん、そうだよね。
奈央だったら、ケーキとかお菓子のお店かな?
「亜紗梨の趣味なんて知らねェが、女の買い物に付き合ってる可能性も高いからな。まずは、ブランドショップか菓子屋を中心に探り入れてみるか」
ボクたちは1階から順にエスカレーターで、目ぼしいショップをくまなく見て周った。
「4階のレストラン街まで、来ちまったぞ。ここに居なきゃ、どこかで行き違ったか?」
そう言えばこのデパート、地下1階まである。
すれ違った可能性も、無くはない。
「流石にレストランを、1件ずつ見て周るのもな。どうしたモノ……ん?」
ボクも、紅華さんが気になった方を見た。
なにやら、特設イベントがやってるらしい。
「色々な占いイベントか。いかにも女受けしそうだし、アレが目当ての可能性もあるな。占いしなきゃ無料で入れるみてーだし、覗いてみようぜ」
ボクたちは小さな占い師ブースが並ぶ、特設会場の通路を歩く。
「おや、これは紅華くんに、御剣くんじゃありませんか?」
いきなり後ろから、聞き覚えのある声がした。
「あ、柴芭じゃね~か。こんなところで、なにやって……って、まあ聞くまで無いか」
「占い師が占いブースでやるコトと言えば、決まってますからね」
占い魔術師の柴芭さんがいう通り、そりゃあ占いだよね。
「それで今日は、人を探しているんですね、紅華くん」
「ああ、そうだぜ。流石に凄腕の占い師だけはあんな」
「いえいえ、占いでも何でもありませんよ。先ほどウチに、亜紗梨くんと見覚えのある女性が来ましたからね。確か、御剣くんの幼馴染みでしたか?」
自慢のタロットカードをシャッフルしながら、涼しい顔で答える柴芭さん。
「なんだよ、客として来ただけか。んで、2人はどこへ行った?」
「ウチでペンダントを買った後、下に降りて行きましたよ。それからは……そうですねえ。向かいのビルにでも、行ってみてはどうでしょう?」
「なんで、そんなコトが解る?」
「これでも、占い師ですから」
小さなテーブルには、タロットカードが何枚か並べられていた。
「ヤレヤレ。エセ占い師の言葉を、信じてやるか」
紅華さんは歩き出し、ボクも柴芭さんに頭を下げて後を追う。
「御剣くんと、幼馴染みの彼女……どうやら、結ばれる運命には無いようですね」
占い師はテーブルから、『ラバーズ(恋人たち)』のカードを指に挟みながら呟いた。
「アイツの占いを信じるなら、このビルだな」
デパートを出ると直ぐに、古びた雑居ビルが目に入る。
「かなり年季入った建物だが、ホントにここにアイツらが入っていったのか?」
「ん、これは紅華隊員と、御剣隊員ではありませんか?」
すると、またもや誰かに声をかけられる。
「お前、杜都じゃねえか」
そこに居たのは迷彩服に身を包んだ、杜都さんだった。
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