共鳴
『ギェエエエエーーーーー!!!』
悲鳴とも聞こえる、醜い声を上げる深紅の魔王。
「そ、そんな……ガラ・ティアさんまで、魔王に……!?」
吸盤の付いた真っ赤な脚が、四方八方に広がって街の建物に巻き付き、人々を締め上げる。
蟹の巨大ハサミを振り回し、舞人たちに攻撃を仕掛けて来た。
「舞人さん、絶望するのは後です」
「今は、対処法を考えるときだよ」
リーフレアとリーセシルは、互いの杖をクロスさせて水の渦を創り上げる。
「水の精霊たち、力を貸して」
「水の牙(ウォーターファング)!」
渦巻から無数の水の刃が飛び出して、魔王の吸盤付き触手を切断した。
「や、やった!」
脚を奪われ、建物の上に崩れ落ちる魔王。
捕まっていた海の民も、解放され水の中へと泳ぎ去る。
「流石に、そこまで簡単じゃないみたい」
「脚が、再生されて行きます」
双子司祭の指摘した通り、真っ赤な巨大触手は切断面から新しく生え替わっていた。
「ど、どうします。リーセシルさん、リーフレアさん」
「そ、そうだね。ガラ・ティアは既に、魔力の高い人間を魔王へと変える、サタナトスの剣によって斬られてたんだ」
「サタナトスに、また遅れを取ったって言うんですか!?」
「魔王となったガラ・ティアさんを救う、対処法はただ1つ……」
リーフレアは、舞人を見つめた。
「ボクの……ジェネティキャリパー」
「そうです、舞人さん。サタナトスの、プート・サタナティスが人を魔王と換えるように、アナタの剣も魔王を少女の姿へと変えるのですから」
「だけど、そのせいでシャロリュークさんが……」
蒼い髪の少年の脳裏に、赤毛の英雄と少女の面影が浮かぶ。
少女の姿となった赤毛の英雄は、還らなかった。
『ギュエエエェェェーーーーー!!』
哀しみの叫びの声と共に、街を破壊し人々を襲う深紅の魔王。
美貌の女将軍の成れの果ては、市場に打ち捨てられた大量の魚介類を捕食し、巨大化する。
「アレはもう、ただの魔王だよ。自我を、完全に失っている」
「魔王となったシャロリューク様も、こうだったのですか?」
「はい……そうです」
海底の街を破壊する魔王ガラ・ティアと共に、忘却の海底神殿を打ち壊した魔王アクト・ランディーグも、紫色の海龍の姿を巨大に変貌させていた。
「ね、姉さま、マズイです。早くここを対処して、バルガ王子たちの救援をしないと……」
「舞人くん、お願い。そうじゃなきゃ、わたしたちがガラ・ティアを、倒すしか無くなっちゃうよ!」
双子司祭の願いに、仕方なく舞人も覚悟を決める。
「ジェネティキャリパーーーーー!!」
漆黒のガラクタ剣を振り上げ、醜く変貌したガラ・ティアへと斬りかかった。
「グッ……うわ!?」
けれども、深紅の魔王を中心に黒い波動が発生して、舞人は弾き飛ばされてしまう。
「ね、姉さま。こ、これはッ!?」
「わからない……けど、ガラ・ティアの中に、何か感じるよ」
「ククククク、流石に察しが良いじゃないか、リーセシル」
妖しく、冷たい声がした。
それはリーセシルにとっては、王都での魔王との戦いの時に聞いた声だった。
「お前は……サタナトス!?」
「ね、姉さま!?」
慌てて姉の元へ身を寄せる、リーフレア。
「随分と、遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」
「それじゃあ、ガラ・ティアたちを魔王にしたのは!?」
「やはり、アナタの仕業なのですね!」
「キミたちこそあの時は、よくも魔王ザババを倒してくれたね。だけど今日は、あの時の男は居ないじゃないか?」
街を覆うドームの天井から、無数に零れ落ちる海水の瀧を背に、金髪の天使が微笑む。
「サ、サタナトスーーーーッ!!」
そこに舞人が、怒りに任せ斬りかかった。
「これはこれは、新たな英雄くんじゃないか」
金髪の少年は、いとも簡単にそれをかわす。
「お前がパレアナを……シャロリュークさんをおおぉぉーーーーッ!!?」
着地と同時に、再び斬りかかる舞人。
「冷静じゃないな。失望したよ」
今度は、自らの剣で斬り結ぶコトを選択するサタナトス。
「な、なん……だッ!?」
「何ィ、け、剣が!?」
舞人とサタナトス、2人の剣が激しく共鳴した。
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