王都の激闘6
リーフレアの魔法力場構築によって、巨大な壁が魔王の巨体を閉じ込める。
そこにリーセシルの召喚した流星が、瀧のように天空から降り注いだ。
「フッ、流石だな。これでは魔王とて、一溜りもあるまい?」
雪影は、魔王が消え去りガラ空きになったサタナトスに向かって、跳躍する。
「それはどうかな。ボクは、時空を切り裂けるんだ」
「再び、次元の狭間へと逃げようというのか……そうはさせん」
白夜丸が輝き、時間の流れが遅くなる。
「そのクビ、貰った」
黒楼丸が、サタナトスの真っ白な首を飛ばしたかに見えた。
「ククク、誰が逃げるなんて言ったかな?」
けれども漆黒の刀は、すんでのところで止められている。
「な、なんだと?」
黒楼丸を止めたのは、獅子のレリーフされた剣だった。
「そ、そんな……」
「あ、あの腕は……魔王の!?」
強力魔法を放った双子姉妹の顔が、驚きの表情に変わる。
「既にあらゆる場所で、時空を切り裂いていたというのか?」
剣は、空間から現れた腕に握られている。
「わ、わたし達の魔法を、回避したっての?」
「で、でもどうやって、魔王の巨体を……」
「簡単な話さ。別に魔王だからって、巨大である必要はどこにも無いんだよ」
腕から先も出現した、魔王の身体。
それは、雪影より多少大きい程度のサイズにまで、小さく縮んでいた。
「なる程な。身体を縮ませて次元の狭間を通り……」
「アイツらの魔法を、回避したと言うワケか」
獅子や鷲との戦いを終えたネリーニャとルビーニャが、いつの間にか雪影の後ろに立っている。
「大きさってのは、都市や城を破壊するのには役立つケドさ。キミみたいな剣士を相手にする場合、返って不利になったりもするからね」
サタナトスを守護するように、人間サイズの魔王ザババ・ギルス・エメテウルサグが立ちはだかった。
「小さくなったところで、我が剣の錆びとなる未来に変わりは無い」
雪影は、魔王ザババに高速の斬撃を、次々に加える。
「そいつはどうかな?」
魔王の六本の腕に握られた獅子と鷲の剣は、それをことごとく跳ね返した。
「ザババは、古代の戦いの神でもあるんだ。キミの二本の剣じゃ、いずれ防ぎきれなくなるよ」
「クッ……!」
サタナトスの言葉は現実となり、実際に押され始める雪影。
「だらしの無いヤツめ。なれば我らが力を貸そう」
「剣の数が増えれば、何の問題もあるまい」
ネリーニャとルビーニャが、雪影の加勢に入ろうとする。
「必要ない。この雪影、見くびってもらっては困る」
白紫色の髪の剣士は、魔王の剣を弾いた勢いを利用し距離を取った。
「なんのつもりだい、納刀なんかして。まさかボクに、降参するワケじゃないだろ?」
何かを感じたのか、サタナトスは時空の狭間に身を隠す。
……と、同時に、魔王ザババが六本の腕で、刀を納めた雪影を急襲した。
「無論、そんなつもりは無い。我が奥義、とくと見るがいい」
剣士の眼が、鋭く輝く。
「開闢(かいびゃく)の斬光!!!」
雪影の腰に下げられた二本の鞘から、白き刀身の剣と黒き刀身の剣が解き放たれた。
「なッ……にィ!?」
白夜丸からは眩い閃光が、黒楼丸からは漆黒の暗闇が広がり、やがてそれらは交じり合う。
『グオオオオォォォォーーーーーーーーーーーッ!!?』
一つとなった光と闇のエネルギーは、魔王の斬撃を全て反射しその体を貫いた。
「クソ、間に合わな……!?」
背後にいたサタナトスも、時空の狭間を閉じるのが一瞬だけ遅れ、身体の半身を喪失する。
「ヤツは逃れたか……」
剣士の視線の先には、金髪の少年の姿は無く、荒廃した王都の姿が映っていた。
「どうやら、あちらも終わった様だぞ」
街の外では、オレンジ色の軍装のオフェーリア軍が、魔物の大軍を壊滅させる。
「我らが呼び出した死者の群れも、ほぼ灰塵と化したようだしな」
垂れこめた雲が晴れ夕日が差し込むと、生き残ったアンデットたちも、再び天へと召されて行った。
前へ | 目次 | 次へ |