魔王の常識
「魔王の時の記憶が残っているのが、重要なコトなのか?」
赤い髪の少女が、グラーク・ユハネスバーグに質問する。
「重要な事だ、シャロリュークよ。今回の事件の首謀者である、サタナトスの正体を知る鍵となるかも知れないのだ」
「それは、どう言う意味かな、グラーク公?」
「答えは、キミの部下が運んで来ているのではなかったか」
「わたしの部下……ま、まさか!?」
グラークが重要と言った答えは、すぐにやって来た。
「ひえぇぇ~。遠かったし、しんどかった~」
「魔王を見つけ出して運ぶの、メチャクチャ大変だったのですゥ~!」
遠路遥々、砂漠から魔王の巨体を牛車に乗せ運んで来た『ジャーニア・ジーンべル』と、『ルールイズ・フェブリシアス』は、その場にへたり込む。
「ジャーニア、ルールイズ……お疲れ様でした」
「二人は休んでよ。あとはボクたちに任せて」
彼女たちから牛車を引き継いだアーメリアとジャーンティ。
牛車を闘技場へと運びこむと、魔王を荷台から降ろした。
「ここって、『チャリオッツ・セブン』の戦車レースが行われる、闘技場ですよね」
蒼髪の少年は、目の前の闘技場で開催された戦車レースのクジで大金を手にし、そこから人生が変わったコトを不思議に思う。
「フム。確かに此奴は、力の魔王にして恐怖の魔王・モラクス・ヒムノス・ゲヘナスじゃ」
闘技場の中央に横たわった巨体を観察しながら、漆黒の髪の少女は言った。
「なる程な。この魔王はサタナトスと交戦し、倒された。つまりは、この魔王を少女の姿とすれば、サタナトスの手がかりが得られるかも知れんのだな?」
「そうだ。もっとも、有効な情報を持ち合わせているとも、限らぬがな」
二人の異国の将軍の会話を聞いていた舞人も、事情を理解する。
「コイツはお前の配下だったんだろ、ルーシェリア?」
ガラクタ剣の柄に手をかけながら、問いかけた。
「い、いや……実はアレは、サタナトスめの勘違いでの。実際には、妾の部下でも何でも無いんじゃが……ただのォ」
「……ただ?」
舞人は、ルーシェリアの言葉の続きが気になった。
「あまり言いたくは無いのじゃが、此奴は何故か魔王であった頃の妾に、結婚しろと何度も言い寄って来てのォ。迷惑も甚だしかったのじゃ!」
「それ、人間の世界で言う『ストーカー』ってヤツだよね?」
「魔王でも、結婚ってできるの、ルーシェリアちゃん?」
「出来ぬことも無いがの。元々魔王や邪神とは、古き時代の神なのじゃ」
「ええ、そうなのか!?」
「じゃから配偶神もおれば、妻を何人もはべらせる輩もおる。もっとも『性』の概念も曖昧で、時代によって男だったり女だったり……場合によっては両方だったるするから、やはりビミョーかのォ?」
「ウ、ウソォ!?」
パレアナは人間との『常識の違い』に、大きく口を開け驚く。
「ようするに、この魔王をジェネティキャリパーで斬って、女の子にするんだね」
「本当にそのようなコトが、起きるのか?」
グラーク公も、疑問を抱かずにはいられない様子だった。
「わたし達だって、実際にこの目で見てなきゃ……」
「信じられなかったでしょうね、姉さま」
リ-セシルとリーフレアの双子司祭も、顔を見合わせる。
「じゃあ行くよ? これ以上増え過ぎても困るから、一人になるように貫く感じで……」
蒼髪の少年は『ガラクタ剣』を抜き、上段に振るい上げた。
「でやああぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!」
「おっと、滑ったぁ!」
悪戯っぽい顔をした赤毛の少女が、ワザとらしく舞人にぶつかる。
「ほわああぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!?」
舞人はよろめきながら勢い余って、魔王を何度も切り刻んでしまった。
前へ | 目次 | 次へ |