宇宙豪華客船
「わたしも行きたいのに、ダメですかぁ?」
栗毛クワトロテールのの少女が、残念そうな顔でボクを見ている。
「悪いがセノン。もう少しだけガマンしてくれ」
「はぁい。おじいちゃんが言うんなら、仕方ないですね」
ボクたちは既に、MVSクロノ・カイロスのハンガー(格納庫)にいた。
目の前にはゼーレシオンと、修復を終えたバル・クォーダの雄姿があり、その向こうには巨大なホタテ貝のアフォロ・ヴェーナーが鎮座している。
「では、会談に赴くのはわたくしと……」
「オレとトゥラン。それに……」
「ああ、ボクを合わせた4名で行く」
セミラミスへはまず、交渉役としてボクとクーリアが決まり、プリズナーとトゥランが警護として同行するコトになった。
「何もクーヴァルヴァリアさま自らが、行くコトはありませんわ」
「カルデシア財団の跡を継がれる、大切な御身なのですよ」
「有難う、貴女たち。でもだからこそ、わたくしが行かなければならないのです」
取り巻きの少女たちを説得する、クーリア。
『艦長が離れるのであれば、艦の指揮はお任せいただけますか?』
「ああ。頼んだよ、ヴェル」
ボクはゼーレシオンに乗り込みながら、艦長としての権限を移譲する。
「ヒュッポリュテーとペンテシレイアは、それぞれの艦隊の指揮を頼む」
「了解だ、艦長」
「無事に帰ってきて下さいね」
中学生くらいにまで幼くなってしまったアマゾネスの女王姉妹に、艦隊の指揮を任せた。
「それじゃあ、行こうか」
ボクたちは、超大型の宇宙豪華客船・セミラミスへと向う。
「見ろよ。セミラミスの周りに、サブスタンサーやバトルテクターが大量展開してやがるぜ」
バル・クォーダを駆る、プリズナーが言った。
「確かにな。何タイプか種類があるみたいだが……」
「赤やオレンジ色の機体がマーズ宙域機構軍の装備で、水色のがメルクリウス直属の部隊ね」
真珠色の巨大イルカとなったアフォロ・ヴェーナーから、トゥランの解説が聞こえた。
「マーズ宙域機構軍は、100年前の設計の機体も混じってやがる。メルクリウスじゃねえが、流石に更新した方が懸命だろうな」
「見て、何機かこっちに近づいてくるわよ」
接近してきたのは12機の水色の機体と、それらを率いる様に中央を飛ぶ、豪奢な装備のライトブルーの機体だった。
周りの機体やゼーレシオンと比べても一回り大きく、30メートルくらいはあり、頭部には1本の長い角が伸びていた。
右手は何も持っていなかったが、左腕には獅子を模した黄金の巨大なシールドが装備されている。
「どうやらメルクリウスさんの、親衛隊みたいだな」
「残念ながら違いますよ、宇宙斗艦長」
ゼーレシオンの触角が、聞き覚えのある声を感知した。
「そ、その声……まさか、メルクリウスさんですか!?」
「ええ、そうです。お出迎えに参上しました、宇宙斗艦長」
中央の機体が停まると、周りの12機も時計の文字盤の様な円となって停止する。
「こ、これは、驚きました」
「驚いたのは、こちらですよ。まさか、艦長直々に交渉にいらっしゃるとは」
「彼女たちは、なるべく危険な目に遭わせたくありませんからね」
「フム……随分と、変わった艦長だ。おっと、これは失礼」
「構わんだろ。なあ、艦長」
事実だと言わんばかりの、プリズナー。
「そうだな。では、ご案内いただけますか?」
「喜んで」
13機の機体は、踵(きびす)を返しセミラミスへと向かった。
「これが、セミラミス……中に、滝や海みたいなプールまで見えるぞ」
ゼーレシオンの高度な視覚センサーが、セミラミス内部のリゾート街を捉える。
「人類が生みだした、最高の宇宙豪華客船の1隻ですからね」
「こんな艦が、他にもあるのですか?」
「ええ、1隻は『ナキア・ザクトゥ』。そして、現在就航予定のもう1隻が……」
「メルクリウス、情報漏洩はそれくらいにして置くんだな」
高圧的な声が、ボクたちの会話にいきなり割り込んで来る。
「ヤレヤレ、アポロ。こんな情報は、この時代の人間であれば 誰だって知っている事実ですよ」
「わざわざ1000年前の古代人に、教えてやる必要も無かろう」
「ハイハイ。解りましたよ、アポロ。みなさん、付いて来て下さい」
メルクリウスさんの機体は、セミラミス下部のカタパルトデッキに吸い込まれて行った。
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