躍動のドリブラーたち
スコアボードに刻まれる、2-0の数字。
思いがけず、ボクたちデッドエンド・ボーイズがリードしてしまっている。
「九龍。お前あんなヤツら、信じる気かよ」
センターサークルで試合が再開され、新壬さんがボールを軽くけり出した。
「一度くらいは、信じても構わんだろう」
九龍さんは新壬さんには返さず、ボールを中盤に戻す。
「しゃーねえな。先パイ方の、お手並み拝見と行くか」
新壬さんと九龍さんは、ボールを後ろに預けたまま前線に張り付いた。
「オイ、ピンク頭。相手は後ろでボールを回してるぞ」
「ま、一応守備しろって言われてるしな」
「パスコースだけ切っときゃ、怒られんのやろ」
のらりくらりと動いて、縦へのパスコースだけ切る黒浪さん、紅華さん、金刺さんの3人のドリブラーたち。
「流石に、喰いついてこねえか」
「なんせ、2点リードしてやがるからな」
「新壬に大見得切ってんだ。少し強引だが、仕掛けるぜ」
狩里矢の4枚の中盤が、動いた。
右のサイドバックと連携し、紅華さんと金刺さんをパス回しで抜き去る。
「し、しまった!」
「一気に、ギア上げよったで!?」
「おっしゃ、抜けたぜ」
「このままライン際を抜けて、新壬たちにクロスだ」
そのまま、ボクたちの左サイドを駆け上がろうとしていた。
……でもそれって、完全に読めてるんだよね。
「な、なんだとォ!?」
ボクはスライディングタックルで、狩里矢の選手からボールを奪う。
うん、良い感じに決まったぞ。
杜都さんのタックルを参考に、密かに脳内トレーニングしてたんだよね。
「か、一馬がまた、ボール取りやがった」
「ナイス判断やで」
相手を追いかけていた、紅華さんと金刺さんが立ち止まった。
「一馬、こっちだ!」
相変わらず黒浪さんが、2人のマークを引き連れている。
ボクは、素早くボールの下側を蹴って、チップキックでパスを出した。
逆回転のボールが、相手のMFと右サイドバックを越え、紅華さんの足元に納まる。
「ヤ、ヤバい、戻れェ!」
「ピンクのヤツに、プレッシャーかけろォ!」
慌ててボールを奪い返そうとする、狩里矢の選手たち。
「やるじゃねぇか、一馬!」
でも、そんなディフェンスで、紅華さんが止められるハズが無いんだ。
「ッしゃ、行くぜ!」
派手なピンク色の髪が、相手の間を駆け抜ける。
シザースとエラシコを組み合わせた独特のフェイントで、2人を抜きペナルティエリアに迫った。
「右が開いてるのに、中に切れ込んで来やがった」
「シュートコースを塞げ!」
「11番もマーク、外すな!」
2枚のセンターバックの1人が、シュートコースを塞ぎながら間合いを取る。
黒浪さんにも、マークが付いたままだ。
紅華さんはたまらず背中を向け、ボールを抱えるようにキープする。
……かに、見えた。
少なくとも狩里矢の選手は、そう思っていたハズだ。
紅華さんに覆いかぶさる様に圧力をかけていた、センターバックの脚の間からボールが出る。
軸足に当てるトリッキーなパスで、ガラ空きの相手右サイドにボールが転がった。
「やるやんけ、桃色サンゴ。高級宝飾品なだけあんな!」
コロコロと転がるボールに、金刺さんが走り込む。
ダイレクトなグラウンダーのシュートが、ゴールのサイドネットに突き刺さった。
『ピーーーーーッ!』
審判の笛が鳴り響き、スコアボードに1点が加算される。
「さ、3対0……」
「オ、オレたちが、こんな高校生だけのチーム相手に……」
呆然自失の、狩里矢の選手たち。
「クッソ、なにやってんだ、先パイ方はよ!」
試合が再開され、新壬さんが単独でドリブル突破を試みる。
「そんなヤケクソのドリブルが通用する程、サッカーは甘くは無いよ」
けれどもあっさりと、柴芭さんにカットされた。
「ここは、通さん!」
ボールを奪った占い魔術師の前に、九龍さんが立ちはだかる。
「フフ。他のみんなも、随分とエンターテインメントなプレイをしてるじゃないか」
柴芭さんは脚の間にボールを置き、チョンと足先で触る。
得意の、マシューズ・トリックだ。
「誘っているな。だが……」
九龍さんは、柴芭さんの意図を読み、左右どちらも警戒しながら圧力をかけた。
「流石にクラッシックなフェイントでは、通用しませんか」
柴芭さんは足裏でボールを引いて、軸足の後ろから左側に通す。
クライフ・ターンに切り換えたんだ。
「それとて、大して変わらんだろうに」
そのままプレッシャーをかけ続ける、九龍さん。
「ボールは、取らせませんよ」
柴芭さんも、ボールを隠すようにドリブルを続ける。
2人の一騎討ちは、左サイドライン際まで続けられた。
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