アマゾネスの急襲
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
母艦であるMVSクロノ・カイロスへと帰還する、巨大な真珠色のイルカ。
一瞬にして戦場から遠く離れ、点のように小さくなっていた。
「我が『アルティミア・カリストー』の光速の矢は、この程度の距離で狙いを外すモノではありません」
オーロラの髪を深淵の宇宙に靡かせ、可憐に弓を引くイーピゲネイアのサブスタンサー。
「やらせるモノかぁあ!!」
ペンテシレイアさんのスキュティア・アマゾーネアの攻撃で、鋭利なナイフが何本か刺さったままのゼーレシオンだったが、ボクは必死にその射線へと飛び込んだ。
「愚かな……我が光の矢は、光速なのですよ」
眩い閃光が、ゼーレシオンの左肩越しをかすめる。
宇宙に長い長い針金の蛍光灯が、瞬時に灯るかのように、弓と目標物を結んだ。
「トゥラン、セノン、真央ッ!?」
秒速30万キロキロメートルの光速での狙撃は、アフォロ・ヴェーナーであろう小さな点を撃ち抜く。
小さな点は、小さな爆発へと変化した。
「返事をしろ、プリズナー。ヴァルナ、ハウメア!」
余りに遠く離れている為に小さく見える爆発も、小さな点よりは遥かに大きく広がっている。
「だ、大丈夫だよ、おじいちゃん」
「シェル(ホタテ貝)モードに変形した上で、重力シールドと装甲とで、なんとか持ちこたえているわ」
「それよりこんな長距離を、光速で狙撃できるなんて、どんな化け物だよ」
「我が光の矢の前に、自身を投げ出すとは。僅かに狙いが……」
アルティミア・カリストーは、ゼーレシオンの前から後ろ側に離れ、再び狙撃をしようと距離を取る。
「そうはさせないーーーーッ!!」
精一杯に右腕を伸ばし、魔剣を突き立て突進するゼーレシオン。
その釼先が、狩りの女神の弓を捉えた。
「イーピゲネイアさま、ご無事ですか!?」
「大丈夫です。ですが、弓をやられました」
ゼーレシオンと女神のサブスタンサーの間に、2機のアマゾネスのサブスタンサーが割って入る。
「アルティミア・カリストーは、接近戦には向きません」
「我らが援護を致しますので、パトロクロスまでお下がり下さい」
「そうですね。替わりに、貴女たちの部下を出しましょう。新たなる身体に、馴染んでいる頃です」
アルティミア・カリストーは、小惑星を目掛けて後退して行った。
「せっかく、今回の反乱の首謀者を討てる、絶好の機会だったのに……」
不利な戦況に焦りを感じていたのか、悔しさが口に出る。
『慌てないで、宇宙斗。少しずつ、敵を減らして行くのよ』
巨大なサブスタンサーになっているボクの脳裏に、黒乃の声が響いた。
「そ、そうだよ。今は2対1じゃないか。そこまで焦る必要は無いんだ」
ゼーレシオンが、ヒュッポリュテーのエポナス・アマゾーネアに斬りかかる。
「コ、コイツ、破損しているわたしを狙って!?」
「まずは、キミを潰す。その次に、ペンテシレイアさんだ」
「舐めた口を聞く。易々と、わたしが討たれるモノか!」
ケンタウロス型のサブスタンサーは、再び部下の槍を持ってボクと斬り結ぶ。
「ゼーレシオンのフラガラッハと斬り結ぶコトが、どれだけ無謀か解らないのか?」
「こ、こんなにも簡単に……ぐわあッ!?」
ゼーレシオが目の前の敵を、武器ごと袈裟斬りに斬った。
「イーピゲ……ネイア……さ」
真っ二つに分断されたエポナス・アマゾーネアから、ヒュッポリュテーの断末魔が微かに聞こえる。
「よ、よくも、ヒュッポリュテーを!!」
もう1機の黄金のサブスタンサーが、無作為に突っ込んで来た。
「冷静じゃないな、ペンテシレイアさん」
「どうかしら、宇宙斗艦長。アナタの身体に食い込んでいるのは、スキュティア・アマゾーネアが、撃ち込んだ武器よ」
ゼーレシオンの腕や脚に刺さったナイフが、再び起動を始める。
ボクは、魔剣を振り下ろすコトが出来なくなった。
「悪いケド、ここで消えて貰うわ、艦長」
「振り下ろせないからと言って、フラガラッハは無効化されていない!」
ボクは魔剣を固定し、スキュティア・アマゾーネアに突っ込んだ。
「きゃああああーーーッ!!」
宇宙に、ペンテシレイアさんの声が響いた。
「ゴメン、ペンテシレイアさん。アナタとはもっと……」
「そう……ね、宇宙斗艦長。ハンバーガー………美味しかった……」
ゼーレシオンの超高感度の触覚でも、もう何も拾わない。
ボクは直ぐに、狩りの女神の後を追った。
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