光の矢
「艦長、気を付けて。あのサブスタンサーの放つ矢は、本当に光速なのよ」
トゥランは、とてつもない要求をした。
「光速って……そんなの、どうやってかわせばいいんだ!」
「そっちの機体は、馬鹿デカイ盾があんだろ。それを身構え……ウガアッ!?」
「プリズナー!?」
漆黒の宇宙に閃光が煌めき、プリズナーのバル・クォーダの頭部が吹き飛ばされる。
「人の心配をしているとは、まだまだ余裕だな」
「我らがいるコトを忘れるな」
ヒュッポリテーとペンテシレイア、2人のアマゾネスクイーンが駆る黄金のサブスタンサーが、ゼーレシオンに攻撃を仕掛けて来た。
「部下たちへの手向けだ。宇宙の塵となれ」
部下たちの槍と剣を手に、斬り込んで来るケンタウルス型のサブスタンサー。
「フラガラッハァッ!」
ボクの魔剣は、エポナス・アマゾーネアの両手の武器を、いとも簡単に両断する。
「胴体が、隙だらけだぞ」
「し、しま……!?」
「ヒュッポリテー!」
アマゾネス姉妹の叫びが木霊した時、宇宙に再び閃光が煌めいた。
「ぐわあああッ!?」
エポナス・アマゾーネアの右脇から襲来した光の矢が、ボクの右肩アーマーを破壊する。
「こ、こんな一瞬のスキを突いて、動いてるボクに狙撃を当てたって言うのか」
それは正直、神業に思える行為だった。
巨人となって宇宙空間に出て、ボクは最初にその余りに広大な広さに驚く。
真空に限りなく近い空間での戦闘は、加速すればそのスピードは落ちず、互いに直ぐに豆粒のような大きさにまで離れてしまうのだ。
「誘導弾でもねえレーザーを当てるなんざ、どんだけ化け物だよ」
「ど、どうすればいい」
「動き回って、狙撃をかわしつつ近づくしかねえ」
「プリズナー、貴方は戻って。頭部をやられて、何も見えないでしょう」
「コイツ1人に、3人の相手をさせんのかよ」
「右に避けろ、プリズナー!」
「クッソ……グワアアッ!?」
咄嗟にのけ反ったバル・クォーダだったが、右の脚を完全に持っていかれてしまう。
「プリズナーを回収して、一端クロノ・カイロスまで戻るわ」
「艦隊戦の最中だろうに、大丈夫か?」
「そこは何とかやってみせる。貴方の娘たちを引き連れて、戻ってくるから何とか耐えて」
「フッ、易々と逃がすと思うか?」
「我らが居るのを、忘れては居まいな」
スピードを落としたアフォロ・ヴェーナーに攻撃を仕掛ける、2機の黄金色のサブスタンサー。
「やらせない、フラガラッハ!」
シールドで狙撃を警戒しつつ、ボクはアフォロ・ヴェーナーとアマゾネスたちの間に割り込んだ。
「キ、キサマ……!?」
ゼーレシオンの魔剣が、ケンタウロスの右後ろ脚を切り落とす。
……と同時に、目の前を閃光が横切った。
「きゃああああッ!」
アフォロ・ヴェーナーの真珠色の巨体に、大きな爆発が広がる。
「トゥラン、大丈夫か。セノン、真央も無事か!?」
「な、中までは、被害無いですゥ」
「でも背ビレと、背中の外部装甲を持っていかれたみてーだ」
「これ以上のダメージは、命取りね。このまま爆発に紛れて離脱するわ」
「わ、解かった。援護する」
プリズナーを回収した巨大イルカは、クロノ・カイロスに向け泳ぎ出した。
「光速での狙撃なら、背後を狙われてしまう。ここは、こうするしか無いか……」
アマゾネス姉妹のサブスタンサーを無視し、ボクは狩りの女神の駆るサブスタンサーに突進する。
「イーピゲネイア様の元に、行かせるワケには行かぬ!」
ペンテシレイアさんのスキュティア・アマゾーネアが、スカートを展開させた。
「シールドで守られた前面と違って、背中がガラ空きよ、宇宙斗艦長」
「マズい、後ろを!?」
スカートは無数の鋭利なナイフとなって、ゼーレシオンを背後から襲った。
「フラガラッハじゃ……グッ!」
けれども巨大な魔剣では、小さなナイフを振り払うには無理があり、何本かが腕や腿に突き刺さる。
「中々に勇壮な戦いぶりですね、人間」
イーピゲネイアのサブスタンサーが、弓をつがえる。
「褒美に、仲間たちが宇宙の塵となって四散する姿を、見せて差し上げましょう」
宇宙に、アルテミスの矢が放たれた。
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