ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・51話

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消える想い

「ここは、軍用の港(ポート)じゃないのか」
 宇宙港には、民間の物であろう宇宙船が数隻停泊している以外に、敵の気配は無かった。

「大きさからすれば、このトロヤ群の小惑星帯の中を航行する宇宙艇ってところか」
 けれども船はどれも無人で、人の気配すら無かった。

「アーキテクターたちの反乱が起きているんだ。人が船に殺到していても、おかしくは無いのに」
 小惑星パトロクロスの全てを掌握する、イーピゲネイア。
無人の宇宙船も彼女の支配下にあるし、港まで辿り着くまでにあった隔壁だって彼女の意のままだ。

「どうやら彼女の人間に向けられた敵意は、本物の様だ」
 ボクはゼーレシオンの身体を、宇宙港の奥へと進める。

「ここは、完全に適地……ボクが進入したのなんて、とっくにバレてるだろうな」
 すると内部へと続く金属の扉が、不意に開いた。

「完全に、誘われているな。アルテミスは、怒らせたら容赦のない神だ。素直に応じるか」
 扉の向こうは減圧室となっていて、その向こうにも扉があった。
入って来た扉が閉じると、街へと続く扉が開いた。

「また、光速の弓に狙撃されたら終わりだ。広い場所に出るのは避けたいところだが……」
 ゼーレシオンは、パトロクロス内部の街へと降り立つ。
数時間前のボクが、生身の身体のまま逃げ回っていた場所だ。

「街がやけに静かだ。人間は、どうなっている?」
 ボクたちは、人間がアーキテクターに襲われる、凄惨な光景を目の当たりにしていた。
けれども街は、不気味に静まり返っている。

 すると、街のあちこちから何かが飛び出した。
それは一体ではなく、無数の群れとなってゼーレシオンを襲う。

「な、なんだ、生身の……アーキテクターか!?」
 人型のそれは、背中に丸い輪に羽根が生えた感じのフライトシステムを装着している。
手にたずさえた、銃やバズーカなどで攻撃をしてくる。

「これは揺動だな。ボクは怯んだ隙を、狙撃する気か」
 振り払おうとするものの、ゼーレシオンの力が余りに強すぎて、何体かがシールドに当たり落下した。

「クッ!?」
 案の定、光の閃光が街の上空を駆け抜ける。
予想していた上に、街の中であるからか威力が抑えめなのもあって、避けられた。

「アーキテクターを何体か巻き込んだが、気にする様子は無さそうだな」
 すると、ゼーレシオンの敏感な触覚が、女性の声をキャッチする。

「フフフ、当然でしょう。我らが敵が死んだところで、何を哀しむ必要があると言うのです」
 それは明らかに、イーピゲネイアの声だった。

「敵って……何を言っている。アイツらは、キミの同胞だろう?」

「言葉通りですよ、群雲 宇宙斗。今、消し飛んだのは、人間です」
「なッ……!?」
 ボクは一瞬、耳を疑った。

「貴方に敵対し、攻撃を加えている『羽虫』は、貴方と同じ人間だと言ったのです」
 ゼーレシオンのバイザーの下の眼で、飛行する人型を確認する。
彼らの首には、コミュニケーション・リングが捲かれていた。

「に、人間がどうして……アーキテクターに味方を!?」
「言いませんでしたか。この小惑星は全て、我が支配下にあると」
 ボクはやっと、彼女の言葉の真の意味を理解する。

「港の宇宙艇も、隔離壁も、天候管理や生命維持システム、食料プラントの管理、そして……」
「人間までもが……貴女の支配下にあるって言うのか?」

 ボクは眼を凝らすと、ゼーレシオンのカメラがズームし繊細な映像が脳裏に映った。
飛行する人間の中には、セノンたちが服を買った店の女性店員も混じっていた。

「こんな……コトって……」
「我が砦に、のこのこと単身で乗り込んできたのが間違いなのです。さあ、人間どもよ。その巨人を始末しなさい」

 狩りの女神の号令と共に、猟犬と化した人間たちが一斉に襲い掛かって来る。

「やめろォ!?」
 女神の弓が放たれ、何人かが光の閃光の直撃を受けて蒸発した。
その中には、服を売った女性店員の姿もあった。

『人それぞれとは思いますが、やり甲斐ではないでしょうか』
 彼女の素朴な言葉が、胸に刺さる。
彼女は自分で服をデザインし、それを着てくれるお客さんの笑顔をやり甲斐としていた。

「イーピゲネイアさん。なんで……どうしてこんなコトをする」
 ボクは多分、泣いていたのだろう。

 だが、ゼーレシオンと一体となっていたボクには、自分が泣いてるか確認する方法は無かった。

 

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