覚悟
女王レーマリアはその日、王都に向かって行幸を開始した。
双子司祭の召喚したユニコーンの手綱を握り、軍の先頭を進む15歳の女王。
「おお、女王レーマリア陛下だ」
「女王陛下が、魔王に蹂躙されたヤホーネスの都を再建すべく、出立なされるぞ」
ニャ・ヤーゴの街の大通りは、新たな女王見たさの見物客で溢れ返る。
「見て見て、女王陛下の親衛隊の方々。みんな、可愛らしい女のコたちよ」
「わたしも、レーマリア女王のお世話をしてみたいわァ」
レーマリアの周りを警護する、親衛隊の9人の少女たち。
「陛下は就任して間もないのに、凄まじい人気を得られておる。王族の血と言うモノであろうか。生まれ持ってのカリスマが、備わっておるのだな」
その後ろに従う、サバジオス騎士団の大部隊を率いる、ジャイロス・マーテス元帥が呟いた。
女王の率いる部隊が、街の門の前の広場までやって来る。
そこはかつて、舞人が剣を手に入れた武器屋があった場所でもあった。
「レーマリア陛下、いよいよ出立なされるのですね」
女王と同じ金髪の将軍が、レーマリアの元に騎馬を進める。
「はい、プリムラーナ将軍」
騎乗したまま、挨拶を返すレーマリア。
「貴女とフラーニア共和国の皆さまには、我が祖国の窮地を幾度となく救っていただき、心より感謝しております。王都を再建した暁には、ヤホーネスと末永い同盟を結んでいただきたいのですが」
「それはわたしも望むところです。我々はこれより祖国へ引き上げますが、サタナトスへの対処は続けるつもりですので、ご安心を」
そう告げると女将軍とその部隊は、門を出て帰国の途に就いた。
「では、我々も参りましょう。王都へは、かなりの道程ですからな」
ジャイロス・マーテス元帥が、女王の傍に騎馬を並べる。
「そう……ですね」
レーマリアは、表情を曇らせた。
「因幡 舞人の、コトですかな?」
「ジャイロス。彼は……現れてはくれませんでした」
女王は、静かに瞳を閉じる。
「覚悟とは、誰しもが簡単にできるモノではございません、女王陛下」
灰色の髭を撫でながら、厳格な顔をした将軍は言った。
「シャロリューク・シュタインベルグの様に、若くして勇者の重責を担える者は、特別なのです」
「ええ、解っております……」
『大丈夫ですよ、レーマリアさま。舞人は……』
「パレアナ!?」
ハッと目を開ける、レーマリア。
「オイ、なんだありゃ?」
「誰かが馬に乗って、丘から降りて来るぞ」
広場に集まった野次馬たちが、騒めき始める。
「ま、まさか、赤毛の英雄か!」
「いや、シャロリュークは今、行方不明なんだろ」
「それに見ろよ。黒い鎧に、蒼いマントを付けてやがるぜ」
漆黒の馬に跨った少年が、広場の真ん中に姿を現した。
「ア、アイツは……」
「あの、蒼い髪の色は……」
少年を知っている、自称勇者たちが口を揃える。
「『ステューピット(間抜け野郎)』じゃねえか!?」
「遅れてスミマ……申し訳ございません、女王陛下」
蒼い髪の少年は、真っすぐにレーマリアを見つめた。
「来て……くれたのですね、因幡 舞人」
15歳の少女は、安堵の表情を浮かべる。
「オ、オイ、アレって本当に、ステューピットなのかよ?」
「あんな精悍な顔、してたか?」
「前はもっとこう、ふやけた顔してやがった気がするぜ」
「ボクは、勇者に志願します。このまま腐ってたら、パレアナに会わす顔がありませんから」
ジャイロス・マーテス元帥は、ため息を吐き顔を緩める。
彼の瞳に映ったのは、覚悟を持った人間の顔だった。
「わたくしと共に、王都へ参りましょう」
「はい、レーマリアさま」
因幡 舞人は、勇者として女王の列に加わる。
「パレアナ、貴女が身を挺して護ってくれたこの命、民と祖国に捧げる覚悟です」
金髪の少女は、丘の上にそびえる古びた教会を見つめながら、馬を進めた。
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