将軍の評価
女王と勇者を先頭に、親衛隊と騎士団が続く一行は、王都への道を進む。
すると、小さな湖の畔に差し掛かった。
「この湖は、魔王となったシャロリューク様が、破壊した爪痕なのですね」
湖は、魔王シャロリュークの攻撃によって巨大な穴が穿たれ、そこに水が入り込んだモノだった。
「は、はい、レーマリアじょ、女王陛下。そ、その通りでございましゅ……あッ」
緊張しまくりの舞人に、女王はクスリと笑う。
「そんなに緊張しないで下さい。貴方の隣に居るのは、同い年の女の子なのですよ」
「は、はい。で、でもなんかパレアナと違って、その……」
「ゴメンなさい。貴方にとって同い年の女の子とは、彼女を置いて他にありませんものね」
その言葉に、舞人は答えるコトが出来なかった。
ぎこちない勇者と女王の会話が、途切れる。
……まったく、この小僧は本当に勇者なのか。
この地形をうがった魔王シャロリュークを、止めたと 言うのもにわかに信じられん。
ジャイロス将軍は内心、そんな思いを巡らせていた。
沈黙がしばらく続くかと思われた時、前方から賑やかな声が聞こえて来た。
「さあさ、よってらっしゃいモ~ン」
「今日は打撃系武器の、特売日だモ~ン」
聞き覚えのある声に、舞人はギョッとする。
「一体、何の騒ぎでしょうか?」
沈黙に困り果てていた女王陛下は、ナターリア、オベーリア、ダフォーリアの3人の侍少女たちに問いかけた。
「どうやら、破壊で出来た湖の畔に……」
「武器屋を開いている者が、居るようですね」
「既にそれなりに、賑わっている様子です」
「ですが、勝手に出店しているのではありませんか?」
「領主のホアキン様の許可は、得ているでしょうか」
「我々が、確かめて参ります」
アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士は、主の返事も待たず斥候として駆け出す。
「仕方のないコたちですね。わたくし達も、行ってみましょう」
「なりません、女王陛下。我々は、急ぎ王都に向かう必要がございます」
女王に苦言を呈す、ジャイロス将軍。
「今は調度、お昼時ではありませんか。貴方の部下たちにも、湖の畔で休息を取らせましょう」
好奇心旺盛な女王陛下は、ニコリとほほ笑んだ。
「じょ、女王陛下!」
「御身まで、お出ましになられたのですか?」
「心配はいりませんよ。皆もここで、昼食にします」
「ところで結果はどうだったのだ。やはり、違法営業なのか?」
「い、いえ、ジャイロス将軍」
「この土地の権利書と営業許可は、正式なモノが出されておりました」
「それは誠か。なんとも商魂たくましいと言うべきか」
「ですが、この土地の権利者で、武器店の主と言うのが……」
「何だ。さっさと申してみよ」
「蒼き髪の勇者、因幡 舞人様なのでございます」
3人の少女騎士は、口を揃えて言った。
「なにィ。この武器屋は、この小僧……い、いや、勇者殿のモノだと言うのか!?」
「権利書によれば、この湖周辺の土地全てが、勇者様の所有となっているのです」
「……ええッ?」
舞人は、意識が遠のくのを感じた。
「この広大な土地全ての……領主……この小僧が!?」
「失礼ですよ、ジャイロス将軍。正式な手続きを経ているのであれば、何の問題もありません」
「ですが女王陛下。武人であれば、武功によって領土を手に入れるのが、習わしでございます」
「それによって、どれだけ多くの血が流されると思っているのです。生産性の無い戦争で手に入れるよりも、余程建設的ではありませんか?」
「しかしですな。これだけの広大な土地、あの赤毛の英雄ですら領してはいないのですぞ」
「シャロリュークさまは、領土欲がありませんからね」
「こ、このボサっとしている様に見える小僧の、どこにそれだけの財力が?」
「勇者様は、チャリオッツセブンと呼ばれるクジで当てた資金を元手に……」
「商売を起こし、この一体の土地を買われたとのコト」
「元は小高い丘があり、大きく道を迂回する必要があった為、土地の値段は相当安かったそうです」
「なる程。破壊によって地形が変わり、迂回する必要が無くなったのですね」
3人の義妹の言葉を引き継ぐレーマリア。
「この土地は、王都とニャ・ヤーゴを結ぶ要衝の地。丘が無くなり街道が通れば、間違いなく人が集まると見込んでの先行投資だと言うのか?」
「イヤ、そう言うワケじゃ……コイツらが、勝手に」
「ご謙遜ですな、勇者殿。見直しましたぞ」
ジャイロス・マーテス将軍は、因幡 舞人に対する評価を一変させた。
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