疑惑の太陽神
「わたくしの素性が知れない……とは、一体どう言った意味ですか!?」
例え快(こころよ)く思っていなくとも、許嫁の言葉に動揺が隠せないクーリア。
「言葉通りの意味だよ。貴女(キミ)が、本物のクーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダだと言う保証は、どこにも無い」
冷徹に言い放つ、モニターの中の男。
「このわたくしが、偽物だとでも言うのですか!」
「貴女だけではない。他のハルモニア女学院の生徒も同様だ」
太陽神(アポロ)の名を持つ男は、ボクの艦全ての人間を疑っていた。
「そ、そんな……」
「なに言ってんだ。アタシらは、本物だ!」
反論を試みる、セノンや真央たち。
「宇宙斗艦長。貴殿の艦は木星圏において、2つの巨大軍事企業国家の艦隊を手中に納め従わせた。例え本物であったとしても、彼女たちを操るくらい、造作も無いコトに思えるのだが?」
この時ボクは、交渉相手が何に懸念を抱いているのか理解する。
「アポロさん。彼女たちはフォボスのプラント事故の被害者で、期せずしてこの艦に乗るコトになっただけです。ボクは、彼女たちハルモニア女学院の生徒たちを、故郷に返すために火星圏を訪れました。もちろん、それが終わればすぐに火星圏を離脱すます」
「偽善者ぶっているが、キミの艦が彼女たちを事故に乗じて連れ去らなければ、わざわざ還しにやって来る必要も無かったのだがね」
「ボクはフォボスの奥底で、冷凍睡眠(コールドスリープ)に着いていたんです。プラント事故が起きて偶然目覚め、彼女たちと行動を共にするコトになりました」
「偶然……それを、信じろと?」
「はい。信じていただきたい」
「だがフォボスの交戦記録で、マーズ宙域機構軍のコンバット・バトルテクターが12機、貴艦の装備に撃破されている。これを、どう説明するのかね?」
「あ、それパパを拉致った時のヤツらだ」
「あたし1人で、やっつけちゃったんだよね」
「でも、マニプュレート・プレイシィンガー(操る遊具)に負けるなんて、弱っちいなあ」
60人の娘たちが背後で、とてつもなく余計なコトを言っている。
それはまだ、ボクが艦長になる前の出来事であり、ボク自身もこの艦に拉致されたのだ。
けれども、例え真実であっても、信じて貰えるだろうか?
「そもそも、プラント事故を引き起こしたのが、貴艦ではないのかね。群雲 宇宙斗」
揺らぎの無い眼光が、ボクを凝視する。
「信じていただけないかも知れませんが、あの時点では……」
「フォボス機構軍の装備は、数十年更新されていないのでね」
ボクの言葉を遮る様に、モニターに映ったアポロの背後から1人の男が現れた。
「ボクは、メルクリウス。宇宙通商交易機構の代表を務めている者だよ」
片目に掛かる金髪をかき上げる、優男。
「フォボス防衛も、お嬢ちゃんたちのオモチャに蹂躙される様じゃ考えざるを得ないね。装備を更新する様、マーズに打診して置くとしよう」
「メリクリウス、余計な口出しはするな」
「アポロ、ボクたちは彼らと交渉に来ているんだよ。キミの言動は余りにも、彼らに対し敵対的過ぎやしないかい?」
「交渉を任せされているのは、このわたしだ。軽々しく得体の知れない者たちを信用すれば、火星圏を危険に晒す結果になろう」
「その為にもまずは交渉の場を設け、話し合うべきじゃないか。それともこのまま対立を続け、彼らと戦火を交えるつもりかな?」
巧みな話術でアポロに詰め寄る、メリクリウス。
「仕方あるまい、好きにしろ」
アポロは座っていた椅子から立ち上がると、どこかへ退出してしまう。
「ヤレヤレ、困ったモノだよ。キミたちには、見苦しいところを見せてしまったね。会談は、セミラミスにて5時間後でどうかな?」
「はい。人数などの指定はありますか?」
「話し合いの会議だから、余り大勢で押し掛けられても困るが、それぐらいかな?」
「セミラミスへは、当艦のサブスタンサーを使っても構わないでしょうか?」
「そちらも要人警備があるだろうし、受け入れようじゃないか」
メリクリウスとの交渉は、とんとん拍子に進んだ。
それからボクたちは、セミラミスへと向かう人間の選定作業に入った。
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