ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・09話

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疑惑の芽

「時の魔女とは……一体、何者なんだ?」
 ボクはフォログラムに、何の捻りも無いストレートな質問をする。

『時の魔女と言う固有名詞以外に、その本当の名前も、顔や姿かたちも、年齢や性別さえも一切の情報はございません』
 ヴェルダンディは、キッパリと言い切った。

「当然、今何処にいて、何を企んでやがるのかも、知らねえってんだな?」
『はい』
 ヴェルのプリズナーに対する対応は、冷淡で簡素だ。

「もしかして、生きているかどうかも解らないってコトですか?」
『そうなりますね、セノン。さらに言えば、人間かどうかすらも解かっていないのです』

「人間かどうか……つまりアーキテクターや、何らかの人工知能である可能性も考えられると?」
 長い真珠色の髪に、ドリル状のピンク色のクワトロテールをした少女が、可能性の一端を示す。

「可能性であれば、幾らでも考えられるぜ、クーリア」
「貴方に軽々しく、名を呼ばれる筋合いはございません」
 機嫌を損ねる、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。

「ケケ……宇宙斗艦長サマなら、愛称で呼ばれるのも構わないらしいぜ」
 プリズナーが、ボクの肩に腕を絡ませながら、ニヤけた。

「ぶ、無礼な。下衆な勘繰(かんぐり)と言うモノです!」
「うわぁ、クヴァヴァさまが珍しく怒った」
「セノンさん、貴女までェ!」

「クーリアもこの艦の閉ざされた空間の中で、みんなと過ごすコトで少し硬さが取れたよな」

「言われてみれば、艦長の言う通りカモな。昔より、話し易くなったし」
「それは言える……」
「ねえ、わたしたちもクーリアって呼んでいい?」

 真央、ヴァルナ、ハウメアのオペレーター3人娘は、クーリアを囲んで集まる。

「べ、別に構いませんが……」
「ええッ、『クヴァヴァさま』のが可愛いよォ!」
「クーリアで、お願いします!」

 セノンの案はあっさりと却下されたものの、彼女がクーリアと呼ぶことは無かった。

「今では、ボクもみんなも慣れ親しんでしまっているケド、元々この艦は『時の魔女』が用意したモノだったんっだよな」

「今のところは艦長に従順だし、他のみんなの言うコトも聞いてくれてれるケド……」
「何時、トロヤ群のアーキテクターたちみたいに……」
「反乱を起こされても、おかしく無いってワケか」

「もしそうなっちゃったら、人間に対処する方法ってあるのかな?」
 セノンの言葉に、その場にいた全員の背筋が凍り付く。

「ま、用心だけは怠らないこった。あとは……」
「祈るくらいしか、出来ない……か?」
「そう言うこった」

 答えの出ないまま、ボクたちは会談の連絡を待った。
2時間ほど経過したあと、衛星ハルモニアの方角から1隻の巨大な艦が現れる。

「あの艦は、『セミラミス』です」
 艦橋にいたクーリアが、ボクの方を振り向き言った。

「随分と、大きな艦だね。クーリア」
「惑星間を行き来する宇宙クルーズ客船で、全長も24000メートルありますね。この艦と同じ様に内部に街があり、リゾード街が再現されてます」

「時の魔女じゃなくても、今の時代の人類はあれだけの規模の艦を造れるんだな」
『セミラミスは戦闘艦ではありませんので、最大速力などはMVSクロノ・カイロスに大きく劣ります』
「ヴェル……な、なんか向きになってないか?」

『艦長。交渉相手の火星より、連絡が入っております。スクリーンをご覧ください』
「あ、ああ」
 ボクは、MVSクロノ・カイロスの艦橋に掲げられた、巨大スクリーンを見上げる。

「お初にお目にかかる。わたしは太陽系の意思決定機関『ディー・コンセンテス』の、アポロだ」
 映し出されたのは、古代ギリシャの美術彫刻の様な男だった。

「ボ、ボクはこの艦の艦長を勤めさせてもらっている、群雲 宇宙斗です」
 スクリーン越しとは言え、火星の権力者とビジネスライクな会話を交わす。
引き籠っていた頃のボクであれば、逃げ出していただろう。

「ほう。貴艦より提示された情報にも、1000年前よりの冷凍睡眠者(コールドスリーパー)とあったが、思ったよりもお若いですな」

「いささか失礼ではありませんか、アポロ」
 ボクの後ろから、クーリアの声がした。

「これは失敬。カルデシア財団の、正当なる後継者も乗艦しておいででしたな」
「白々しい物言いですね」

「まあまあ、クーリア。それより、会談の日時は決まったのですか?」
「……時間は、そちらで指定していただいて構わないが、場所はセミラミス艦内でいかがか」

「交渉場所は、ハルモニアでは無かったのですか!」
「素性の知れない人間を、ハルモニアに近づけさせるワケには行かないのでね」
「何と言う、無礼な……」

「それは、貴女も含めてですよ。クーリア」
 スクリーンに映る男は、無機質な目でこちらを見降していた。

 

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