救援部隊
「宇宙斗艦……聞えます……」
ウーやゲーとの死闘を続けてると、ゼーレシオンの触覚が微弱な電波を捉える。
「アンティオペー艦長か?」
「いいえ。オリティアですが、今は細かい事象は省きます。現在の状況を、お伝え下さい」
声の主は、テル・セー・ウス号の3人の乗組員(クルー)の1人である、オリティアだった。
「了解した。今現在、ボクとミネルヴァさんは、かつての日本にある八王子のドーム都市に降り立ち、色々あって敵と交戦中だ」
「そちらの状況を、把握しました。テル・セー・ウス号は現在、赤道付近の衛星軌道を維持し、地球の衛星システムであるウーと交戦中です」
「なんだって。そっちも、ウーと交戦しているのか?」
「はい。1時間ほど前より、突如として地球の衛星防衛システムより攻撃を受けました。自衛のために、反撃を開始しているところです」
「凡(おおよ)そ、ボクたちがゲーと交戦を始めたときくらいだろうな」
「宇宙斗艦長。そちらの交戦相手は、誰ですか?」
「ゲーと、ウーだよ。地球を管轄する量子コンピューターのAIであるゲーと、人工衛星の制御システムであるウーだ」
「それでウーが、こちらを艦長の味方と推察し、人工衛星による攻撃を仕掛けてきたのですね?」
ボクと情報を共有し、納得するオリティア。
「そっちの戦況は、どうだ?」
「現在、攻撃衛星の80パーセントを、沈黙させております。あと数分で、ほぼ全ての攻撃衛星を沈黙させられるかと」
攻撃衛星とは、地球の防衛衛星なのだろう。
1個艦隊にも満たない艦隊で、地球の防衛衛星は沈黙させられてしまうのだ。
「その前に八王子上空のウーを、撃破できないか?」
「個体を、確認致しました。残念ですが、地球の死角に入ってしまっていて、今すぐは不可能です」
「どれくらいなら、狙撃できる?」
「5分後には可能となりますが、そちらには既に援軍を送っております」
「援軍だって。それは、アマゾネスのか?」
「いいえ、直ぐに合流できると思いますので、ご確認下さい」
「ご確認って……!?」
ゼーレシオンは、首を上下左右に振る。
「おじいちゃん!」
聞き覚えのある声が、聞こえた。
「セ、セノンか!?」
ボクは、漆黒の空を見上げる。
雲間から、真珠色の巨大なイルカ(アフォロ・ヴェーナー)が降下して来ていた。
「オイ、間抜けな艦長よ、聞こえるか?」
「その声、プリズナーも来ているのか」
「いいか、聞きな。まずはアフォロ・ヴェーナーで、空に浮かんでやがるアイツを、狙撃する。それからイルカを、地球の汚ねェ海に着水させるから、なんとか乗り込め」
プリズナーが、有無を言わさず命令した。
「了解だ。ラビリア、メイリン……行けるか?」
「やってみるラビ」
「せめて地球から出るまで、死にたくないリン」
2人の乗ったシャラー・アダドが、こちらに向かって駆け上がって来る。
「トゥラン、また忌々しい場所に戻って来ちまった。早々に、終わらすぜ」
忌まわしい場所とは、何を指すのか。
ボクの脳裏に、ギムレットさんの顔が浮かんだ。
「了解よ、プリズナー。ウーを撃破するわ」
真珠色をした巨大なイルカは、口を開ける。
その先にあったウーが、いきなり炎を上げながら落下して行った。
「あれだけ苦戦したウーが、いきなり壊れたメル!」
「ど、どうなってるラビ?」
「エコー・ロケーション……超音波による振動で、ウーを破壊したのか?」
「そうよ。大気か液体の存在する場所じゃないと、仕えないのが欠点だケドね」
トゥランの駆るアフォロ・ヴェーナーは、そのまま黒い海へと潜水する。
……と思いきや、ボクたちの目の前に浮上した。
「大きなイルカさんが、迎えに来てくれたメル!」
「早く中に、入るラビ!」
シャラー・アダドは、巨大イルカの側面ハッチから内部に入って行く。
「よし。ボクらも急ごう、ミネルヴァさん」
ボクは、コックピットの中の女性の安否確認を兼ねて、声を上げた。
「オイ、艦長。後ろ、来てるぞ!?」
「え!?」
プリズナーの焦燥感のある叫びに、振り返るボク。
そこには、蜷局(とぐろ)を巻いた巨大なゲーが、1つ目の鎌首をもたげこちらを睨んでいた。
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