オアシスの激戦~6
砂丘が生み出すギザギザの地平線に、オレンジ色の太陽が夕日となって沈もうとしている。
けれども砂漠は真昼の如き明るさで、風は熱砂となって吹き荒れていた。
「ア、アレは一体……!?」
砂丘に登ったイヴァン騎士団長が、彼方に見える闘いの様子に驚愕する。
そこには真っ白な眩い光を放つ、赤毛の英雄の姿があった。
「シャロのヤツ、最後の切り札を使う気だわ」
「き、切り札とは?」
カーデリアの口より早く、シャロリューク・シュタインベルグの身体が、溢れ出す光の中に消える。
それは巨大な光の鳥となって、天高く舞い上がった。
「シャロリューク・シュタインベルグ……力を失って尚、これ程の技を隠していたか」
魔王ケイオス・ブラッドが、光の鳥が消えた空を見上げる。
「だが、オレの刻影剣バクウ・プラナティスの前では、どんな技とて無意味よ」
6枚の翼を広げ砂漠の空へと舞い上がると、剣を振り空間に幾つもの漆黒の球体を生み出した。
「アレは、妾たちが喰らった技じゃ」
「ですが本来のアレは、虚無の空間のハズ。あんなモノに突っ込んで行ったら、いくら赤毛の英雄シャロリューク殿とて、消滅は免れないのでは……」
「シャロ……」
肩を窄め、幼馴染みの安否を気に掛けるカーデリア。
さらに大きさを増した真っ白な光の鳥が、天から舞い降りた。
一直線に降下して、ケイオス・ブラッドの生み出した漆黒の球体の障壁に突っ込んで行く。
「愚かな。虚無に突っ込むなどと……」
「見るのじゃ、カーリー。ヤツの漆黒の球が、蒸発しておるぞ」
「ホントだ、シェリー。次々に消え去って行ってるわ!」
カーデリアは、漆黒の髪の少女に抱きつく。
「クク……面白い。流石だ、赤毛の英雄よ」
魔王も再び剣を振るい、特大の漆黒の球を夕焼け空に生み出した。
それはあたかも、砂漠の砂全てを飲み込むかの様な勢いで膨張する。
「これが……魔王の力だと言うのですか!?」
「勝って、シャロ……お願い!」
パッションピンクの髪の少女は、祈るように戦況を見つめた。
「不死鳥(フェニックス)が、虚無の宇宙(ブラックホール)に突っ込んだのじゃ!」
真っ赤に染まる太陽の前で、光と闇がスパークする。
「うわあ、熱い熱いィ!」
「父上、熱いのですゥ」
「マ、マントに、隠れさせてェ」
イヴァン騎士団長のマントに身を隠す、3人のオオカミ少女。
砂漠に、灼熱の下降気流(ダウンバースト)が叩き付けられた
「もし、キサマが力を失っていなかったら……」
赤い夕日の前に、黒い影が浮かんでいる。
「敗れていたのは、このオレの方だったのかも知れぬな」
六枚の羽根を広げる影の右腕には、刻影剣バクウ・プラナティスが握られ、もう一方の左腕には、光を失ったエクスマ・ベルゼが握られていた。
「う、嘘……シャロが……!?」
ヒザをつき、崩れ落ちるカーデリア。
「赤毛の英雄が……敗れたと言うのですか!?」
「ああ……恐らく、消滅して……」
「シャロは、死んじゃいないわ!」
鬼の様な形相で、ルーシェリアの両腕を掴む少女。
「カーリー……そうじゃな。ヤツは不死身じゃ」
「そう……よ。シャロは、不死身なんだからぁあぁぁ!!」
カーデリアは、親友の小さな胸で泣きじゃくった。
「クッ……流石にダメージが、大きすぎる……か」
魔王ケイオス・ブラッドも、翼は傷付き身体中が蒼い血にまみれている。
「ヤ、ヤツが、逃げてしまいますぞ」
「好きにさせる他ないわ。口惜しいが今の妾たちでは、あヤツに勝てぬのじゃ」
「目的は……果たした。後は、この英雄剣に相応しい人間を……」
魔王は自らの剣で空間を裂き、中へと消えた。
夕日が沈み、砂漠に安らかな夜が舞い降りる。
残された一行は、僅かな望みにすがって砂漠を探したが、赤毛の英雄も、赤毛の少女さえも見つけるコトは出来なかった。
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