サタナトスVS舞人
舞人が憧れた『赤い髪の英雄』は、今まさに大勢の人々が暮らす、ニャ・ヤーゴの街を破壊しようとしていた。
「人間どもの希望を、その両肩に背負った英雄が、魔王と化し人間どもを焼く尽くすのさ。どうだい……これホド面白い余興って、他にないだろう?」
天使の如く純粋な微笑みを浮かべる、サタナトス。
「そんなコトは、させない! ボクの憧れた英雄は、太陽のように温かく人を惹きつけるから『英雄』なんだ!」
勇ましく、ガラクタ剣を構える舞人。
「ヤレヤレ……キミはどこまで愚かなんだい。絶対的な強さを誇るシャロリューク=シュタインベルグが、魔王と化しているんだ。キミの能力で、伏防げるホド甘い炎じゃないと思うケド?」
舞人の前で渦を巻く巨大な炎のトルネードが、サタナトスの言葉を裏付ける。
「聞いてくれ、シャロリュークさん! ボクは、あなたの背中に憧れた。あなたみたいに、カッコ良くなりたかった。あなたみたいに、大ぜいの人たちの喝さいを浴びたかった!」
蒼髪のボサボサ頭の少年は、有りっ丈の力を『ジェネティキャリパー』に込める。
「アハハハ、この後におよんで英雄に命乞いかい? だけどムダさ。彼の意識はもう無いんだ。このボクの剣、『プート・サタナティス』によってね」
紅き魔物が、真っ白に輝く灼熱の魔弾を放った。
「ご主人サマ、逃げるのじゃ!!?」
白く透き通った手を伸ばす、ルーシェリア。
「シャロリュークさんを、『魔王』になんてさせるものかあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
少年の叫びもろとも、煌めく超高熱の光がすべてを飲み込んだ。
「……ご、ご主人サマァァァァァーーーーッ!!?」
漆黒の髪をした少女の、悲痛な叫びも完全に爆音にかき消される。
地面や岩盤をも蒸発させる、真っ白な光の熱風が辺り一面を焼き尽くす。
岩石の混じった土煙が霧のように辺りを覆い、丸くくり抜かれた地上に干上がった川の水が流れ込んだ。
「バ、バカな……!? 灼熱の炎が街を襲わないだと?」
宙を舞いながらも、驚きを隠せないサタナトス。
それどころか、光の炎の一部が金髪の少年を襲っていた。
「このボクに傷を負わせ……なお且つ、あの攻撃を防ぎ切ったと言うのかッ!?」
巻き上げられた土砂や岩石が、バラバラと舞い落ちる先には、地面に横たわる少年と傍らに立つ少女の姿があった。
「ど、どういうコトだ。真っ白な光の渦が……段々と小さくなっていく!?」
消し飛ばされた左半身を押さえながら、ルーシェリアに問いかける。
「まったく……ご主人サマは、なんと言う無茶をするんじゃ……」
ルーシェリアは血塗れの少年の頭を、自らの膝枕に乗せ汚れた額を拭く。
「ど、どこへ行ったんだ……赤毛の英雄。いや、赤毛の破壊神は!!?」
「そんなモノは、もうどこにもおらんのじゃ」
「お前、なにを言って……!!?」
驚きの表情を浮かべるサタナトスの瞳に映ったのは、赤い髪の少女の姿だった。
少女は全裸で、魔王シャロリュークがいた場所に横たわっている。
「ああ、そうじゃとも。お前の剣が、人を魔王へと変えてしまう能力であれば、ご主人サマの剣はな……魔王を女の子に変えてしまうのじゃ!」
ルーシェリアは、自らの自慢のようにそう答えた。
彼女の言葉には、『もし、この青髪の少年に手出しをすれば、全力を持って相手をする』と言う気迫が込められており、傷を負った金髪の少年は手を出すのをためらう。
「フッ……まあいいさ。計画通りでは無かったが、これで『赤毛の英雄』は失われたんだ。完璧なハズのボクの計画に、狂いが出てしまったのは腹立たしいケドね」
サタナトスはそう吐き捨てると、蜃気楼の剣士から奪った幻剣・『バクウ・ブラナティス』で『時空の扉』を創って、その中へと消え去った。
「ヤレヤレ……じゃのォ。何とか、行ってくれたか?」
実際のところ、ルーシェリアに戦う力など殆ど残されてはいなかった。
「ご主人サマよ、カッコ良かったぞ。まあ、少しだけじゃが……な」
少女は、全ての力を出し尽くして気を失った少年の額に、軽く口付けをする。
「しかしのォ……ご主人サマよ。これからどうするのじゃ? 人間どもの希望の象徴である赤毛の英雄を、女の子に変えてしもうて」
漆黒の髪の少女が目線を送った先には、全裸の『紅い髪の少女』が横たわっていた。
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