赤毛の少女
その日……舞人は、体の上に妙な圧迫感を感じて目が覚めた。
辺りを見ると、そこは長年慣れ親しんだ教会のベットで、一人の少女が自分の眠っていたかけ布団の上で、気持ちよさそうに寝入っている。
幼馴染のシスター、パレアナではなかった。
ルーシェリアより、もっと小柄なのだ。
「キミは誰だい? ……ボクを看病でもしてくれていたのかな?」
蒼髪の少年は、紅いボサボサ髪の少女の肩を揺すって起こした。
「……オ、オウ? 目が覚めたか……舞人! 体は大丈夫か?」
見た目が十歳程度の少女は、馴れ馴れしく少年を呼んだ。
「随分とワイルドな感じの女の子だなあ。パレアナの知り合いの子かな?」
舞人は、赤毛の少女をヒョイッと抱き上げる。
「そう言や礼がまだだったな。助けてくれて、サンキューな……舞人!」
少女は、やんちゃな笑顔でニカッと笑った。
「……へっ?」
舞人の脳裏に段々と、サタナトスと刃を交えた時のコトが思い浮かんでくる。
「いやぁ~参った参った。イティ・ゴーダ砂漠で魔王と戦ってたら、いきなり後ろからバッサリだもんな~? サタナトスってヤツの剣は、『人を魔王に変えちまう』みてーだが……オメーのお陰で大量殺戮者にならずに済んだぜ!」
蒼髪の少年は、抱き上げた『赤髪の少女』を見て、額に脂汗を浮かべた。
「……あの……もっ……もしかして…『シャロリューク』さん……ですかぁ?」
舞人は、少女が否定してくれるコトに願いをかけて聞く。
「おうよ!」
けれども彼の耳は、最悪の返答を脳に伝えてきた。
「ゴメンなさい! ゴメンなさい! ゴメンなさい!」
頭を抱え、天を仰ぐ蒼い髪の少年。
「ああ……ボクはなんとゆーコトを、してしまったんだあぁぁーーーーッ!?」
舞人は教会の床に頭を擦りつけて、ひたすら謝る。
「シャロリュークさんを、こんな姿にしてしまって! 人類の希望であり、救国の『赤毛の英雄』をよりにもよって、いたいけな少女の姿にィィィーーーー!?」
「落ち着けって、舞人。名誉も肩書きも、命あってのモノダネだ。それに『女の体』ってのも、意外と悪くは無いのかもな? ……胸はぺッタンコだし、背も小っちゃいケドよ」
少女にされた当の本人は、意外にもあっけらかんとしている。
「……ああ……ボクは『間抜け』どころか『大・大・大間抜け』だああぁぁ!?」
けれども少年は、自分が犯した罪の大きさに押し潰されそうになっていた。
「せっかく『女の体』になったんだしよ。上手く利用しね~手はねえよな、舞人!」
「……ふえ?」
舞人には、赤毛の英雄の言葉が理解出来ない。
「今日はニャ・ヤーゴの城で、あのクソガキ……サタナトスの討伐に向けた会議が、開かれるらしいんだぜ。ヤツを野放しにしておくのは、危険すぎっからな」
「……そ、そうなんですか……?」戦いのあとの記憶が無い、舞人。
「オメーは戦いで疲れて眠ってたみてーだから、リーセシルたちが気を遣って起こされなかったが……流石に目覚めたとあっちゃ、出席しないワケにもいかんだろ?」
「は……はい……」舞人は、憂鬱に返事をする。
(この教会に、プリムラーナ将軍やカーデリアさんが尋ねて来たときも、メチャクチャ緊張したもんなあ。でも、流石に断れないよなあ?)
赤毛の少女は、足取りの重い舞人を引き連れ、教会を出るとニャ・ヤーゴ城へと向かった。
スタスタと城門をくぐり抜けようとするが、城兵につまみ出されてしまう。
「あの……シャロリュークさんが、その姿になったってコトは……?」
「言ってね~よ。自分で言うのもなんだが、オレって影響力が大きいからな」
それはそうだろうと、心の中で思う舞人。
「まあ、ルーシェリアって娘の意見なんだが……な。今の人類にとって、英雄ってのは心の拠りどころみてーだからな」
「ルーシェリアが……」
舞人は、彼女が色々と気を遣ってくれているコトに感謝した。
前へ | 目次 | 次へ |