ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・07話

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交渉の場

「普段は傍観者を決め込む、キミにしては珍しい判断じゃないか、アポロ?」
 金髪の好青年が、隣を歩く古代のブロンズ像の様な男の顔を覗き込んだ。

「今は傍観者など、演じていられる状況では無いのでな、メリクリウス」
「『時の魔女』が、絡んでるとあっては……が、理由かい?」

「そのコトは、最重要機密なのだぞ。ディー・コンセンテスの場以外で、口に出すなど……」
「ボクが言いたいのはね。他に理由があるんじゃないかってコトさ、アポロ」
 メリクリウスは、涼しい顔でほほ笑んだ。

「何が言いたい?」
「キミが、今回の交渉責任者に名乗り出た、本当の理由が気になってね」
「理由など明白だ。かの謎の艦隊を、放って置くワケには行くまい」

「それだけじゃ無いだろう。あの艦には、キミの許嫁が載っているらしいじゃないか」
「メリクリウス、キサマ……」
 アポロの鋭い眼光が、金髪の好青年を捕らえる。

「火星の開発に大きく寄与した、影の功労者カルデシア財団。そのご令嬢が、かの艦隊に拉致されたんだ。キミが、黙っていられるハズが無いよね?」
 今度は、弦月の如き目がアポロを映した。

「確かにわたしは、カルデシア財団の宇宙エネルギー機構代表ではある。だが、たったの1人の命など、今回の大事の前では意味を成さない」
 アポロは、メリクリウスの前から立ち去った。

 元々、フォボス(敗走・混乱)どダイモス(恐怖)と呼ばれる、2つの衛星を従えていた火星。
赤い惑星は地球人によって、新たな衛星を手に入れる。
ハルモニア(秩序)と呼ばれる、人の手によって造られた衛星が、軍神の名を持つ惑星を周っていた。

「セノン、真央、クーリア。それに、他のみんなも聞いてくれ」
 ボクは、MVSクロノ・カイロスの艦橋に集った、乗組員(クルー)たちを前に演説する。

「火星にある太陽系最大の統治機関、ディー・コンセンテスとの交渉が行われるコトになった。まずは交渉の場として、衛星ハルモニアが指定されたんだ」

「ハルモニアって……本当ですか、おじいちゃん?」
「ああ、セノン。たった今、アポロと名乗る交渉相手から、正式な回答があってね」

「これでやっと、ハルモニア女学院に帰れるんだな!」
「う、嬉しい……」
「ああ、早くみんなに会いたいよ」

 真央も、ヴァルナも、ハウメアも、手を取り合って喜んでいる。
元々、彼女たちは火星圏の住人であり、ハルモニア女学院に通っていたのだから当然だろう。

「ケッ、アポロが出て来やがったか」
「知っているのか、プリズナー?」

「知っているっも何も、オレの直接の雇用主だぜ。当然、オレなんかに名を明かしちゃいねェがな」
 ボクの問いかけに、アッシュブロンドの髪の男は大きく口元を歪めた。

「アポロがカルデシア財団のご令嬢の、身柄を確保する様に指示したのはほぼ確実ね」
 トゥランも、相棒の意見を補完する。

「だけど前に、クーリアのお爺さんが依頼主だって、言ってなかったか?」
 今度は、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダに問いかけた。

「アポロは、わたくしの許嫁です」
「キミの……許嫁!?」

「カルデシア財団の名誉会長であるお爺さまは、わたくしの両親がシャトルの事故で亡くなって以来、塞ぎこんでしまわれて、現在の実質的トップはアポロなのです」

「つまり、キミを助ける様に依頼したのが、キミのお爺さんで……」
「爺さんの指示を受けて、オレを雇い入れたのが、アポロってこった」

「どちらにせよボクは、カルデシア財団のトップに目の仇にされてるってコトだよな?」
「ま、そうなるわな」
「なんでおじいちゃんが、カルデシア財団に目を付けられてるんですか!?」

「コイツは、クーヴァルヴァリア嬢や、お前も含めたハルモニア女学院の生徒たちを、何人も拉致した張本人なんだぜ」
「わたし達、おじいちゃんに拉致されたワケじゃありません!」

「でもなあ、セノン。アポロや火星側は、そう思ってないだろうな」
「この艦の艦長は、宇宙斗艦長……」
「艦長も、時の魔女の創ったこの艦に拉致されたって言っても、信じて貰えるかどうか」

 3人のオペレーター娘が、的確に現状を述べた。
状況証拠だけ並べれば、ボクが彼女たちを拉致した犯人と推理されても、全くおかしくは無い。

「ま、用心深いアポロのコトだ。交渉の場を火星やこの艦じゃ無く、中立の場所を指定して来やがったのも、何か思惑があるのかも知れねえぜ」
 いつに無く、相手を警戒するプリズナー。

「そのアポロと言う人物は、策略家なのか?」
「小細工を好むタイプじゃねえが、野心家ではあるぜ」

「例えどんな相手であろうと、ちゃんと話し合うしか無いってコトか……」
 MVSクロノ・カイロスは、衛星ハルモニアに進路を向けた。

 

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