混迷する会議
地球人によって、かつてあったとされる豊かな大気を復活させた火星。
真っ赤な惑星も、テラ・フォーミングが進むに連れて、蒼さと緑色の割合が増していた。
「交渉とはまず、互いを知るコトから始めなければなりません。彼らの詳細な情報を、まずはメリクリウスに提示して貰いましょう」
アポロは立ち上がり、円卓を囲む12の席の1人に眼をやる」
「ヤレヤレ、アポロ。ボクが情報を集めているのも、既にお見通しと言うワケかい?」
宇宙通商交易機構の代表である金髪の好青年は、肩を竦めた。
「お互い利権やら、政治的思惑があるコトは理解する。だが、コトは急を要するのだ」
「ハイハイ、解りましたよ。まずはこれをご覧なさいな」
メリクリウスが視線を向けると、円卓の真上に巨大な球体のフォログラムが映し出される。
「これが、彼らの艦隊ですか」
「ええ、ミネルヴァ。先ほどユピテル自身が言っていた通り、殆どが木星のグランジュポイントにある2つの企業国家から、鹵獲したモノです」
「艦隊の規模は、どの程度なのです?」
地球圏代表の女性が、再び問いかける。
「4個艦隊が存在し、1個艦隊が大型宇宙空母5隻、中型空母12隻、小型空母兼強襲揚陸艦42隻、宇宙戦艦1隻、巡洋艦5隻、駆逐艦10隻、小型艦やミサイル艇などを入れますと、1000隻規模の艦隊になってますね」
「かなり、空母寄りの編成じゃねえか。ま、ウチの艦隊にかかれば、一瞬で宇宙の塵になっちまうがよ」
真っ赤な髪に、燃えるようなオレンジ色の瞳、褐色の肌をした男が言った。
「事は、そう簡単な問題では無いのだ、マーズ(火星圏代表・マルステクター社・会長)」
「どい言うこった、アポロ。我がマルステクター社の艦隊が、木星圏如きの艦隊に遅れを取るとでも言いてェのか?」
「その通りだ」
「何だと!?」
「今のまま戦火を交えればマーズ、お前が敗北するコトは必至となる」
「まあまあ、アポロ。マーズも情報は最後まで聞かなきゃ、意味を成さないよ」
「ケッ、わかったよ。さっさと続きを喋りやがれ」
「火星の艦隊が敗北する理由とは、何なのです?」
一同の質問が、メリクリウスに集中する。
「敗北の理由は、たった1隻の艦なんですよ」
金髪の好青年が手をフォログラムに掲げると、中の映像が艦隊中央の1隻の艦を捉える。
「この艦は……かなり巨大ですね」
「全長は2200メートル、全幅890メートル、艦底から艦橋最上部までの高さが430メートルもあります。偵察機の映像では、中に巨大な街も確認されてるんですよ」
「巨大であれば、良いってワケじゃ無ェだろ。ヒットボックスが、デカくなるだけだぜ」
腕を組んで、ふん反り返るマーズ。
「残念ながら、この艦自体が戦闘をする映像は手に入れられませんでしたが、艦載機のレベルだけ見ても相当な制圧力を持っていますよ」
フォログラムの球体の映像が、再び切り替わる。
「この映像は、トロヤ群での戦闘の様子を、民間人や無人カメラが撮影したモノなんですがね」
「なんだ、これは。ずいぶんと、変わったタイプのサブスタンサーだな?」
マーズのオレンジ色の瞳に、白に金色の装飾が施されたサブスタンサーが映る。
「件(くだん)の、アーキテクターの反乱時のモノですね」
「相手は、反乱の首謀者であるアーキテクターの機体なんですがね。どちらの機体も、我々が保有している量産機を、大きく上回る性能を示しているんです」
「指揮官用のスペシャル機の性能が高いからって、その他の機体まで高性能とは言えんだろうが?」
「残念ながら、マーズ。彼らが2つの反乱で失ったサブスタンサーの数は、ゼロです」
「なにィ!?」
「どうやら、侮ってはいけない交渉相手の様ですね」
「その通りです、ミネルヴァ。軽々しく戦火を交えては、なりません」
アポロが、うやうやしく言った。
「ずいぶんと弱気じゃねえか、アポロ。例え戦力的に充実した相手だろうと、火星の6個艦隊に火星圏の6個艦隊を合わせた12艦隊を持ってすれば……」
「彼らは、グリーク・インフレイム社とトロイア・クラッシック社の艦隊を、乗っ取ったのだよ」
「貴方の艦隊が、乗っ取られる可能性も考えなくてはならないのです」
「うッ、それは……」
マーズは言葉を失う。
「彼らの艦の性能に加え、艦隊を鹵獲した情報戦能力。明らかに、オーバーテクノロジーなのです」
「何が言いたいのです、アポロ」
「彼らとこの件の裏には、『時の魔女』が絡んでいる可能性があるのです」
古の太陽神の名を持つ青年の言葉に、円卓を囲んだ全員の表情が凍り付く。
「……まずは、彼らと交渉をしてみましょう」
地球圏代表の女性が、立ち上がった。
「アポロ。メリクリウスと共に、彼らとコンタクトを取りなさい。方法は、任せます」
「ハッ」
「これは、厄介なコトになったねえ」
2人の神は、アテーナー・パルテノス・タワーを後にした。
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