ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第五章・EP019

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

ドライブシュート

 亜紗梨 義遠さんとボクは、壁パスの練習を始めた。
まずは相手のパスをトラップし、パスで相手に返す練習だ。

 この人、どことなくボクに似ているな……。
それが亜紗梨さんに対するボクの、最初の印象だった。

 髪型もボブヘアだし、どことなく女のコっぽい感じがする。
それに、このパス。
ボクの蹴り易いところに、ピタリと飛んできてるんだよね。

 すると亜紗梨さんは、ニコッと微笑んだ。
パスが左側に、大きくずれる。

 ミスじゃない。
これって、ワン・ツーのパスだよね。
ボクは走り込んでパスを受けると、同じ要領で前方にパスを出す。

「ナイス、パス。御剣くん」
 亜紗梨さんが、柔らかい声で言った。
今度はダイレクトに、パスがボクの前方に蹴られる。

 ダイレクトパスなのに、かなり正確だ。
ちゃんと、ボクがスピードを落とさずに走り込める範囲に、ボールが出て来る。
ボクもダイレクトで、パスを折り返した。

「中々、やるな。それ!」
 亜紗梨さんは、あえて距離を取ってパスを受けると、やはりダイレクトでボールが返って来る。

 パスに、ワン・ツーの距離を離そうって意図が、込められている。
よし、それならボクも距離を取って……あ、しまった!
ボールが、けっこう前方に転がってしまった。

「これで、フィニッシュだ、御剣くん」
 なんと亜紗梨さんは、既にそこに走り込んでいる。
そして、右脚から可憐なアーリークロスが上がって来た。

 このボール……ヘディングは得意じゃ無いケド……。
ボクは頭で軽く触って、ボールの方向を変える。

「ナイスゴールだね、御剣くん」
 駆け寄って来た、亜紗梨さんが言った。
ボールは、海馬さんが転がり練習をしていたゴールの右隅に、吸い込まれていた。

「へー、やるジャンか、亜紗梨」
 あ、紅華さんだ。

「海馬コーチが言ってた通り、オレが抜けてから腕を上げやがったな」
「トミンに比べれば、まだまださ。それに、ゴールを決めたのは御剣くんじゃないか」

「あんなモン、ほぼお前が獲らせたゴールだろ」
 紅華さんの意見は正しい。
ボクがやったコトと言えば、来たボールの方向を変えただけなんだから。

「謙遜すんなって。綺麗なアーリークロスだったぜ」
 黒浪さんもやはり、亜紗梨さんの技術の高さを褒めてる。

「ノープレッシャーだったからね。ディフェンスが居たら、こうは行かないよ」
 うわ、凄い冷静だ。

「確かに試合じゃ、相手と競り合って上げないと行けないモンな」
「一馬のヘディングだって、あんなフリーじゃ打てね~だろうしよ」
 ……ですよね。

「そうね、みんな。試合での、プロのディフェンスのプレッシャー、ハンパ無く高いね」
 先方への挨拶から戻って来た、セルディオス監督が言った。

「それに海馬。練習だからって、簡単にゴールを割らせ過ぎね」
「え……でも今は、キャッチングの転がり練習を……」
「御剣と亜紗梨の動きみて、止めたいとは思わなかったね?」

「は、はあ……」
「なんとも、心配ね」
 困った顔をしたメタボ監督は、ゴールの右隅に転がっていたボールを何度かリフティングする。

「プロってのは、売られたケンカは買わなきゃダメよ、海馬」
「セルディオス監督……なに……を……?」
 唖然とする海馬さんの目の前で、監督がシュート体制に入った。

「まあ、見てるね」
 宙に浮いたボールを、太い右脚が擦り上げる。
タップンタップンと揺れる、大きなビール腹。

「こ、これは……!?」
 ボールは大きな弧を描き、相手ゴールの上空に達すると、急激に落ちる。

「ド、ドライブシュートォ!?」
 セルディオス監督が放ったボールは、90メートル先のゴール右下に決まってしまった。

「ス、スゲェ。今、ボールがメッチャ落ちたぞ!」
「確かにドライブ回転をかけたシュートも凄いケド、この距離を決めてしまうなんて」
 黒浪さんと亜紗梨さんが、驚いてる。

「セルディオス監督って、実は凄い選手だったのか?」
「だからそう言っているだろう、紅華」
「いやだってあの腹だぜ、雪峰。早々に信じられっかってんだよ」

 ……うん、ボクも半信半疑だった。

「オイオイ、お前ら。感心ばかりしてんじゃねェよ」
「あん、どうしたんスか。コーチ?」
「あんなシュートを、決めてしまったら……」

「あ……」
 ボクたちは全員一斉に、相手エンドを見た。

「出来たばかりのチームが、ずいぶんと舐めたマネしてくれるじゃねえか」

 すると、ハーフウェイラインを越えて、オーバーレイ狩里矢の1人の選手が、ボールを転がしながらやって来ていた。

 前へ   目次   次へ