ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第五章・EP020

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オーバーレイ狩里矢

 真っ白な生地に、赤いラインが斜めに入ったユニホーム。
南米のチームに、あんなのあった気がする。

「ウチのゴールに、派手なドライブシュート決めてくれるたぁよ!」
 デッドエンド・ボーイズの練習エリアに入ったその人は、そこからいきなりシュートを放った。

「あ……」
「こ、このシュートは!?」
 ハーフウェイラインから放たれたシュートは、大きく空に撃ち上がる。

「セルディオス監督と同じ、ドライブシュート!?」
「ここから、急激に落ち……」
 アレ、落ちないッ!?

 ボールはそのままゴールバーを超え、どこかに飛んで行ってしまった。
練習をしていた全員の注目が、微動だにしないその人に集まる。

「テッメ、新壬(にいみ)。なに、恥ずかしい真似してんだよ!?」
「だって先輩パイ。あんなシュート決められて、悔しいじゃないですか」
「だったらせめて決めろ。ドライブシュートなんて、出来もしねえモン撃ってんじゃねえ!」

「だってアイツら全員、高1っスよ。アイツらに出来て、オレに出来ないハズが……」
「そんなんで出来たら、誰も苦労しねえよ!」
 新壬って人、大きな身体の人に怒られてる。

「なあ、ピンク頭。ドライブシュート、オレらの誰かが撃ったコトになってねえか?」
「だろうな、クロ。監督のヤツ、逃げやがったし」
 あッ、セルディオス監督が居ない!?

「まったく新壬、お前ってヤツは」
「オレらまで、恥かいたじゃねえか!」
「漫画じゃあるまいし、ドライブシュートなんてプロでも早々決められねぇよ」

 新壬さん、他の人にも囲まれて責められてる。

「なに言ってんスか。オレら、プロっすよ」
「これだから、子供は。プロって言っても、格があんだよ」
「だってオレら、トップリーグ目指してんじゃ無いんスか」

「何時の話だよ。親会社も、昔みたいに本気じゃねぇんだ」
「今じゃ地域リーグにまで落ちちまって、有力選手も抜けたからな」
「だったら、自分が有力選手になりゃあ、良いだけの話でしょうが!」

「なに燃えてんの、コイツ。キモ!」
「ま、新壬の言った通り、今日の相手は全員高校生だし楽勝だな」
「しっかし、オレらも舐められたモンさ。アハハ」

 センターサークルには、新壬さんと最初の大柄の選手だけが取り残される。
2人も直ぐに、自陣に戻って行った。

「お相手も、ずいぶんと人間関係が複雑な様ですね」
 柴芭さんが言った。

「でもなんか、ムカつくな。あの新壬って人が、可哀想だぜ」
「なに言ってるね、クロ。本当に可哀想なのは、彼をバカにした選手の方よ」
「うわ、監督が戻ってきたぁ!」

「彼らも昔は、高校とかユースのエースクラスね」
「そ、そうなのか?」
「そうじゃなきゃ、今ここでサッカーやれて無いよ」

「そんな彼らでも通用しない程、プロの壁は高かったのですね」
「そうね、柴芭。当然、運や監督との相性もあるね」
「チーム戦術に合わず、試合に出られなかったでありますか……」

「自分を使ってくれる監督が、最も優れた監督……って言葉も、あるしな」
 紅華さんが言ったのは、倉崎さんの憧れるヨハン・クライフの言葉だった。

「アップは終わり、一端ベンチに戻るね」
「ウス」
「了解(ラジャー)」

 監督の指示でベンチに戻る、デッドエンド・ボーイズのメンバー。
その顔は既に、戦闘態勢に入っていた。

「改めて言うが、今日の試合相手はオーバーレイ狩里矢だ」
「なあ、キャプテン。オーバーレイってなんだ?」
 う、うん。ボクも少し、気にはなってた。

「オーバーレイとは、IT用語で『覆い被さる』とか、『圧倒する』と言った意味だ」
「ずいぶんとマウント取るのが、好きそうなチームやな」
「でも、なんでIT用語なんだよ?」

「親会社が、自動車の精密制御装置を造っている会社でな。市民の公募で決まったらしい」
「そう言えば親会社は、日本有数の自動車部品メーカーでしたね」

「他に、『オーバー・ザ・レインボー』の略、との意味もあるとのコトだ」
「虹の向こう……ですか。高い理想を掲げたチームなんですね」
 柴芭さんも、腕を組んで納得している。

「チームコンセプトは、どうだっていいね。今日の試合、最も注意するのは新壬よ」
「でもアイツ、ドライブシュート失敗してたジャンか」

「彼はフォワードよ。ゴールエリアで勝負するフォワードに、ロングシュートなんて必要ないね」
「漫画じゃねぇんだからさ。お前は……」
「うっせえ。そんなの解かってるよ、ピンク頭!」

「さあ、デッドエンド・ボーイズの力、見せつけてやるね」
 メタボな監督に送り出され、ボクたちはピッチに散らばった。

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