ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・05話

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火星の歴史

 MVSクロノ・カイロスの、内部の街にある学校。
ボクはそこで、教師の姿となった女性型フォログラムの説明(レクチャー)を受けていた。

『人類はまず、火星の衛星フォボスに、地球との距離が近い時期を見計らって人員や物資を輸送し、開発の拠点基地として整備しました』

「フォボス……か」
 ボクが1000年もの間、引き籠った挙句、最初に目覚めたのがフォボスの地下プラントだった。

「火星のテラ・フォーミングと、メインベルトの資源開発が目的だったんですよね?」
 普段は、艦長のボクをサポートしてくれるヴェルが、教師ってのもおかしなモノだ。

『その通りです。人類はフォボスの軌道を修正して、火星への激突を回避すると同時に、宇宙港、資源の採掘・加工プラント、小さな街を築きました』
 美人女教師が、豊満な胸の下で腕組みする。

「もしかしたら、ボクと黒乃の眠っていたカプセルは、火星入植の初期段階でフォボスに運ばれたのかも知れないな……」

『何か、言いましたか?』
「いえ、何でもないです」

「フォボスへの入植は、人類が宇宙時代の幕を開ける大きな一歩だったのですよ、宇宙斗くん」
 振り向くと、教室に1人の少女が入って来ようとしていた。

「委員長、どうしてここへ?」
 クーリアだった。

「クラスメイトの補習に、付き合おうと思いまして」
 彼女の本名は、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。
この街での設定は委員長だが、本来は大財閥・カルデシア財団のご令嬢である。

「お邪魔でしたでしょうか?」
『いいでしょう。許可します』
 ヴェルの許しを得たクーリアは、ボクの隣の席に座る。

『火星への本格的な入植は、カルデシア財団などが出資しフォボスを起点として行われ、まず地下都市が建設されました。クーリアさん、理由は解りますか?』
「有害な宇宙線や、隕石などの脅威を避ける為でしょうか?」

『正解です。大気の組成を、地球に近づける作業が完了するまでの間、企業国家は地下に拠点を置いていたのです。かのマルステクター社でさえも、工場プラントはアマゾニス平原の地下にありました』

「過去形……ってコトは、人類は地上に拠点を移したんですね?」
『クーリアさん、換わりに答えていてだけますか』

「はい。火星の地表の面積は、地球の陸地の面積とほぼ同等であり、言い換えると人類が利用可能な土地は、地球と同じだけ用意されていたのです」
 1000年前のボクが通っていた学校を再現した教室で、クーリアは立ち上がる。

「多くの企業国家は、自分たちの領土である地下都市の上に、地上都市を築きました」
「そんなコトをして、強度的に大丈夫なのか、委員長?」

「火星の重力は、地球の40パーセントに過ぎません。重みで地下都市が潰れるコトも無ければ、高層建築も容易に建てられるんですよ」

「なるホド。重力が小さいってコトは、そんな利点もあるのか。地上に街ができたってコトは、大気の成分は地球と同じになっているんだな?」

「重力を操ることが可能になった現在の人類は、火星の表面からおおよそ1キロのラインまで、大気を固定するコトが可能です。大気は、地球の大気に近くなっている地域も増えましたが、元の火星の素性に近い場所もまだ存在しますね」

「ちなみにだケド、火星で一番高い建造物って何ですか?」
 現在の科学技術の水準を知る上でも、聞いて置きたかった。

『アテーナー・パルテノス・タワーで、標高25000メートルのオリュンポス山の山頂に建てられた、全高3000メートルの超高層タワーね』

「タワーには、ディー・コンセンテスと呼ばれる太陽系最大の意思決定機関が置かれ、周囲は大規模な居住区になってます。山頂は火星の大気の上に存在するため、軌道エレベーターとしての役割も、果たしていますね」

「今や地球は、太陽系の中心じゃないんだな……」

『オリュンポス山には、太陽系のあらゆる場所からやって来る、宇宙船やシャトルの発着するハブ宇宙港があるのよ。名前は……』

 エベレストの2倍以上の標高を持つオリュンポス山の頂上には、アクロポリス宇宙港があって、無数の宇宙船が慌ただしく発着を繰り返している。

「我々『ディー・コンセンテス』は、早急に意思を決定せねばなりません」
 それを見下ろすようにそびえるタワーの頂上で、会議は尚も進行していた。

「ですがミネルヴァ(地球圏の代表)、太陽系最高位の意思決定機関である我々に、間違いは許されないのです」
 クルクルと巻いたクセ毛に、芸術的な肉体を持った青年が異を唱える。

「アポロ(カルデシア財団・宇宙エネルギー機構代表)、貴方の意見を聞きましょう」
 ミネルヴァの許可を得て、アポロは立ち上がった。

「此度の謎の艦隊との交渉、このアポロに一任いただきたい」
 ブロンズ像の様な肉体美の好青年は、皆の前で堂々と言い放つ。

 

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