ディー・コンセンテス
「それって……どう言うコトだ?」
ボクは思わず、全く同じ質問をしてしまった。
「要するに、トロヤの生産ラインじゃ作りようが無い、オーバーテクノロジーってことだろ」
「待ってくれ、プリズナー。じゃあ一体誰が、イーピゲネイアさんのアーキテクターを製造したんだ?」
ボクの頭にも薄々、その答えが浮かぶ。
『時の魔女かと思われます』
ヴェルダンディの答えは、ボクが予想した通りのモノだった。
『イーピゲネイアのアーキテクターは回収されておらず、確実とまでは言えませんが、破壊された光の弓などを分析した結果、我が艦やゼーレシオンと似た技術(テクノロジー)が使われているコトが判明しました』
「ト、トロヤ群でのアーキテクターたちの反乱は、イーピゲネイアさんの意志によるものだったハズだ」
「残念ながら、そうじゃ無いってコトだろ」
「だ、だけど、アレだけ大勢の人間が命を堕とし、多くのアーキテクターが破壊されたんだ」
「それに意味なんて無えよ。人が生きるか死ぬかなんざ、そこら中で起こっている話さ」
「で、でもですね。人はそこに……意味を見出したいんだと思います」
栗色のクワトロテールの少女が、プリズナー相手に自らの意志を示す。
「ま、センチになんのは勝手だがよ。冷静に見ればアーキテクター共の反乱は、時の魔女が裏で糸を引いていた可能性が高いってコトだろ?」
「イーピゲネイアさんは、時の魔女に煽動されていたって言うのか?」
「自分じゃ利口ぶってたがな。そう言うヤツに限って、煽動されて世の中を狂わせるのさ」
「イーピゲネイアさんは……」
ボクは反論しようとしたが、思い止まる。
プリズナーが言った言葉は、紛れも無い正論だったからだ。
「でもさ、艦長。ペンテシレイアたちは、仲間に加わったワケだし……」
「こうして、火星にも還ってこれた……」
「後は大人たちの交渉次第だケド、いつまで待たされるんだか」
「真央、ヴァルナ、ハウメア。火星は、キミたちの故郷だったね」
「まあな。赤い大地に降りるのが、待ち遠しいぜ」
「久しぶりの里帰り……」
「早く妹たちに、遭いたいよ」
「そうだな。早く、結論が出てくれれば良いんだが……」
ボクはため息を吐きながら、眼下の赤い星を眺めた。
赤い大地を吹く風は、赤い砂塵を巻き上げる。
軍神の名を持つこの惑星は、地球の10分の1の質量しか持たず、重力も40パーセントと小さい。
けれども逆説的に考えれば、地球に比べロケットを宇宙に打ち上げるのも容易であり、木星圏やメインベルトの開発に大きな役割を果たして来たのも、この惑星である。
「一体、どこの国の所属なのか。その得たいの知れない艦と言うのは!」
火星を含む太陽系全ての惑星に置いて、最も標高の高い山・オリュンポス山の頂上に築かれた、ギリシャのパルテノン神殿を超高層ビルにしたかの様な建造物。
「我が火星の人間を、フォボスのプラント事故に乗じて大勢拉致したと言うでなはいか」
その最上階の会議室で、巨漢の男が円卓に集まったメンバーを相手に、声を荒げていた。
「これは明らかに、我ら火星を狙った侵略行為の前兆に他ならない。我々『ディー・コンセンテス』は、一致団結して彼奴等と対峙すべきだと考える」
男は一しきり捲し立てると、大きく息を吐き椅子にドカッと座った。
「言いたいことは、それだけかしら。木星圏の代表(ユピテル)」
円卓の周りに配された、12の椅子の1つに座った女性が、鋭い視線を男に向ける。
「貴方の管轄下にあるトロヤ群と、ギリシャ群の軍事企業。そこで勃発したアーキテクターの反乱を、彼らが鎮圧したとの情報がもたらされているのですが、ユピテル……貴方の見解をお聞かせ願いたい」
「そ、それはだなあ、月圏の代表(ディアナ)。まだ調査報告が、完全には上がっておらんのだ」
男は屈強な筋肉質の身体を丸め、言葉を濁す。
「まさか、あの情報が真実だったとは……前代未聞の失策ですぞ、ユピテル」
金髪の美しい好青年が、巨漢の男を責め立てる。
「元はと言えば、グリーク・インフレイム社と、トロイア・クラッシック社による、降らない軍需の利権争いがコトの発端でしょう。しかも、彼らが率いる艦隊は、その2社の艦隊を鹵獲(ろかく)したモノだと言うではありませんか」
「お、落ち着かれよ、メルクリウス(宇宙通商交易機構の代表)殿」
最初に声を荒げた巨漢の男が、必至に弁明を始めた。
「ヤツらは我が統治下にある艦隊を、4個艦隊も奪ったのですぞ。これが敵対行為で無くて……」
「お黙りなさい、ユピテル」
1人の女性が、それを制する。
「もはや貴方に、発言権はありません。これより我らが裁定が降るまで、木星に帰って事態の収拾に勤めなさい」
「は、はい、ミネルヴァ(地球圏の代表)様!」
ユピテルは謙(へりくだ)って、会議を退出した。
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