エースナンバー
「さて、いよいよオレたちデッドエンド・ボーイズの、サッカーでの初陣だ」
倉崎さんが、みんながロッカールームに納まったところで言った。
「サッカーでの?」
「他に初陣なんて、あるのか?」
龍丸さんと野洲田さんが、同僚だった紅華さんに尋ねてる。
「お前らが入る前、オレたちは小さなフットサルの大会に参加したんだよ」
「なる程。それで、サッカーでの初陣ってコトなのか」
「で、結果はどうだったんだ?」
「決勝までは、なんとか行ったんだが……」
「お前ら、12-0のボロ負けやったやんけ。フットサルのスコアに、見えへんわ」
「黙れ、イソギンチャク。1回線敗退のお前らに、言われたくねえぜ」
睨み合いを始める、紅華さんと金刺さん。
「でもアン時は、相手が悪かったよな。チェルノ・ボグスだっけ。全国の高校のトップクラスの選手が、何人も参加してたし」
「特に美堂 政宗の身体能力は、目を見張るモノがあったであります」
「相手が悪かった……なに言ってるね、クロ、杜都?」
「え、でもアイツさ」
「死神と呼ばれるだけのコトは……」
「今日の相手の方が、よほど強敵よ」
「監督の言う通りだな、お前ら」
セルディオス監督の意見に、賛同する倉崎さん。
「三木一葬のアイツらには悪いが、高校生レベルの選手がいきなりプロで通用するかは未知数だ。恐らく美堂と葛埜季なら通用すると思うが、確実じゃない」
「そうね。今回の対戦相手、オーバーレイ狩里矢には、高校からトップリーグに入って、1試合も出ずにクビになって、流れて来た選手もイッパイいるね」
そうなんだ。
やっぱプロの世界って、厳しいよね……。
「倉崎さん、メンバー表が来ました。どうやらサブメンバーや、ユースチーム主体の様です」
雪峰さんの繊細な指が、タブレットを弾く。
「随分と舐められたね」
憮然とする、セルディオス監督。
「な、なんだよ、2軍かよ」
「本音で言えばオレらの相手なんて、したくね~だろうしな」
「ワイら無名やし、しゃあないわ」
「だがお前ら、油断は出来んぞ。相手のメンバーに、新壬が入ってる」
「新壬……ニイミってあの新壬?」
「ええ、新壬 義貞(にいみ よしさだ)です」
「なあ、倉崎さん。その新壬ってヤツは、スゴイのか?」
「ああ。学年はオレの1つ下、お前らの1コ上だ。オレも何度か、ユース代表で同じになったが、スピードのあるFWだ」
「代表クラスかよ」
「スピードじゃ、負けたくないケドなぁ」
「そこは、絶対に勝つって言うね、クロ」
「そうだぞ、お前ら。これからはどんな相手だろうが、勝ってい行かなければ上には上がれない」
倉崎さんが、大きなバックを開けた。
中には、蒼いユニホームがたくさん入っている。
「紅華、雪峰、杜都、黒浪、柴芭の5人には、既にユニホームを配っているから、これは残ったメンバーのモノだ」
……えっと確か、紅華さんが7番、雪峰さんが6番、杜都さんが5番、黒浪さんが11番、柴芭さんが8番だったよね。
「まず、1番は海馬さん」
一つだけ色の異なる黒いユニホームが、海馬コーチに手渡される。
「倉崎、コイツに正ゴールキーパーの番号は、荷が重いね。999番くらいで良かったね」
「そ、そりゃ無いっスよ、セルディオスさん!?」
メタボな監督に言われ、頭を抱えるメタボなオジサン。
「12番が金刺、お前だ」
「ワイか。レギュラー番号じゃ、ないんかいな」
「オレもチームじゃ、14番だ。気にする必要は無いさ」
倉崎さんにとっては、14番がエース番号よね。
それはオランダが生んだ伝説のフットボーラー、ヨハン・クライフの背番号でもあった。
「龍丸が2番、亜紗梨が3番、野洲田が4番だ」
「おう、任されたぜ」
「オ、オレが3番……頑張ります」
「4番か。こりゃ、攻め上がっても良さそうだな」
レギュラー番号が、続々と……。
ボクもせめて、20番以内がいいな。
「辺見が27番、日良居が21番、歌和薙が22番、汰依が13番、蘇禰が14番、那胡が15番、屋城が16番……」
ぜんっぜん、ボクの名前が呼ばれないんですケド!?
も、もしかして、戦力と思われてないんじゃ!?
「一馬、10番」
……。
…………。
「……へ?」
「一馬、お前がこのチームのエースだ」
倉崎さんは、涼しい顔で言ってのけた。
前へ | 目次 | 次へ |