スタジアム問題
「へー、流石はトップリーグ昇格を目指してるだけあって、スタジアムもちゃんとしてんな」
「メインスタンドなんか、屋根まで付いてるぜ」
バスから真っ先に駆け降りた、紅華さんと黒浪さん。
開口一番、スタジアムの感想を述べる。
2人のドリブラーの言葉通り、スタジアムは白い雲のような形の屋根に覆われた観客席もあって、小さいながらも綺麗だと思えた。
「スタジアムの隣に、クラブハウスらしき建物があるであります」
「狩里矢市の市営だろうケド、スポーツ施設が集中して造られてる感じだね」
「見てみィ、練習用のサブグランドまであんで」
ボクの後から降りて来た、杜都さん、柴芭さん、金刺さんの3人も、スタジアム周辺の整えられた状況に、感嘆の声を洩らす。
「い、いくらトップリーグ目指してても、3部リーグの下の地域リーグのスタジアムに見えないね。ブラジルじゃ考えられない豪華ね」
平然としてる紅華さんたちに対し、セルディオス監督が一人で向きになってる。
「だがよ。こんな立派なスタジアムを見せつけられると、ウチはホントに大丈夫かって思っちまうぜ」
監督の言葉を受けた紅華さんが、チームのオーナーに視線を飛ばした。
「ムッ……まあ、そうだな」
そう答えた倉崎さんのサングラスには、遠くの雲が映ってる。
「まあ、そうだな……じゃないですよ、倉崎さん」
雪峰さんが、倉崎さんの背後に立ってタブレットを広げた。
「いい加減にホームグランドを選定しないと、今年中の地域リーグへの加盟申請は不可能になります」
「名古屋は、大きな都市なんだ。小さなスタジアムくらい、けっこうあるだろう?」
「残念ながら今のところ、どこも相手にしてくれません」
「なあ。倉崎さんは、元々どないな計画やったんや?」
「残念ながら倉崎さんに、大した計画なんてね~よ」
「マ、マジか、どないすんねん!?」
「オレたちで、何とかするしかない。悪いのだが柴芭。チームスタッフが、全く足りていない」
「OK、解ったよ。まさかチームスタッフまで兼任とはねェ」
流石の占い師でも、予見できなかったみたい。
「だったらオレさまも、なんか手伝うぜ」
「お前みてーなバカに、スタッフなんて出来るかよ」
「う、うるせー。お前だって同じじゃねえか、ピンク頭」
「オレ自身はな。でも、コイツらは使えると思うぜ、雪峰」
紅華さんはそう言うと、新たに加わった10人の選手を指さした。
「キャプテンと副キャプテンだった龍丸と野洲田は、ある程度の仕事を任せて大丈夫だ」
2人とも確か、センターバックとして紅華さんが推薦した人だよね?
「そうか、それは助かる」
「他のヤツらも仕事の指示さえあれば、卒なくこなすと思うぜ」
「実は経営組織の確立から、役員や取締役の選出、チームを支持するサポーター集めの広報も必要でな」
「メチャクチャ必要じゃねえかよ、雪峰。さっさと言えよ」
「そう言うコトであれば、オレたちも協力させてくれや」
「チーム経営に関わるってのも、将来を考えりゃ悪くねェのかもな」
龍丸さんと野洲田さんが言った。
2人とも、しっかりしてるなぁ。
背が高くて体格も良いし、ボクと同じ高校1年には思えない。
「あ、みなさん、到着されたんですね」
クラブハウスらしき建物の前で、1人の制服姿の少女が元気に手を振っていた。
「ア……アレはッ!?」
「お前がセクハラかました、千鳥ちゃんじゃね~か」
紅華さんが、真っ赤になったっぽい黒浪さんの、肩に肘を乗せる。
「おま……そう言うコト言うの、マジで止めろよ!」
「ぎゃはは、面白れーヤツ」
「雪峰さん。先方とは、話を通して置きました」
彼女は、箙(えびら) 千鳥さん。
動画制作会社からウチに出向してる、カメラマンの女のコだ。
「チーム関係者でもないのに、すまない」
「いえいえ、これくらい全然です」
「千鳥ちゃん、今日は制服なんだ」
軽く話しかける紅華さんに、それをギロリと睨む黒浪さん。
「ええ、どうです。これで少しは、女のコに見えますか?」
スカートを風にはらませ、クルリと回転してみせる千鳥さん。
「み、見える……」
「そこまでカチコチに、固まるこたぁねえだろ。駄犬」
「皆さんを、ロッカールームに案内するように言われてますので、付いて来て下さい」
「あ、ここがクラブハウスじゃね~の?」
「ここはバスケなどの試合を行う、アリーナですよ」
それからボクたちは、千鳥さんに連れられてロッカールームに入った。
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